更新日:2025年05月21日

【データで見る時計業界・2025年最新版】モルガン・スタンレー発表の2024年スイス時計売上ランキングトップ20

モルガン・スタンレー発表の2024年スイス時計売上ランキングトップ20

2021年以来、堅調な成長を続けていたスイス時計産業ですが、先日発表されたスイス時計協会(FH)の年次レポートによると、中国の景気減速の影響を受け、2024年はついにマイナスに転じました。
ここ数年、コロナ禍とコロナ後の時代において、時計業界は異常なまでの関心を集めていました。投機家が参入し、資産としての時計に関する「投資」という側面がフォーカスされたことで、時計ブランドは目覚ましい売上を記録し、その結果、一次市場だけでなく二次市場でも時計の価格が急騰しました。
しかし今、私たちはようやく「正気」を取り戻し、その一方で今、おそらく市場シェアを拡大し続けるであろう強力なブランドと、勢いを失いつつあるブランドとの二極化がより顕著になりつつあります。

一方でドナルド・トランプ大統領がスイスを含む複数国からの輸入品に対し大幅な関税引き上げを発表し、スイス製品にはなんと最大31%もの関税が課される方針が示され、スイス時計業界に大きな衝撃を与えています。一定の猶予と交渉期間が設けられ、対話が進んでいるものの、今後の時計価格への影響が心配されるところでもあります。

2025年の先行きも気になりますが、まずはモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)とスイスのコンサルティング会社「LuxeConsult」のによるスイス時計業界の最新調査レポートで2024年のスイス時計業界の状況を振り返ってみましょう。
このレポートはブランドから直接提供された数字ではなく、あくまでも推定値ではありますが、非常に有用性があるとされています。

本ブログではこのレポートをもとに、スイス時計業界の最新動向と推定販売収益によるランキングをご紹介します。また、リシュモン、スウォッチ、LVMHの2024年決算報告書についてもご紹介します。

スイス時計協会(FH)の年次レポートによると、平均して、2024年のスイス時計輸出額は2023年の267億スイスフランから2.8%減少し、総額は約260億スイスフランとなり、2022年と2023年の記録的な成長の後、初めての減少となりました。

世界的なパンデミックの状況下で、その資産性に注目が集まったスイス時計の輸出額は、2022年に過去最高となる249億スイスフランに達し、その後2023年にはさらに267億スイスフランまで上昇し、急成長期を迎えました。
しかし、2024年になると、世界経済の不確実性、消費者行動の変化、そして地政学的要因により、市場は減速し始めたのです。

ごく一部の時計ブランドが好調で全体の業績向上に貢献した一方、多くの製品は平均を大きく上回る減少を記録しました。レポートからは消費者による高級身の回り品への需要減速や、エントリーおよびミドルレンジ分野での競争激化の様相を示していることが読み取れます。

中国および香港の景気減退の影響による需要縮小は深刻な状況で、時計メーカーはすでに2025年への懸念を表明しています。市場の回復は主に中国の見通しに大きく依存しており、不確実性は依然として高い状況です。現時点では2025年に好転する兆しはなく、減少幅はやや小さくなるものの、スイスの時計輸出は前年に引き続き減少傾向をたどる可能性が高いと見られています。

スイス時計業界の概況、スイス時計協会(FH)の年次レポートより

製品別に見ると、腕時計は時計産業輸出の大半を占めており、その総額は2023年比で2.8%減の248億スイスフランとなりました。輸出本数も9.4%減少し、160万本減の1530万本と歴史的な低水準となっています。

価格帯別に見ると、輸出価格3,000スイスフラン未満の時計は売上高が15.6%減少しました。一方、3,000スイスフラン以上の高価格帯は1.0%増加し、総額の80%以上を占めましたが、全体の減少を補うには至りませんでした。
主なマイナス要因はスチール製時計(価値ベースで-9.8%)であり、貴金属製時計は金の価格上昇などを反映した価格効果で2.2%の増加となりましたが、数量ベースでは5.1%減少しています。

地域別に見ると、アメリカ大陸(北米・南米)は最も活発な市場で、5.4%増となり、2024年のスイス時計輸出の5分の1を占めました。アジアは7.6%減で、中国(-25.8%)と香港(-18.7%)の大幅な落ち込みが影響しました。ヨーロッパは-0.1%と、2023年の高水準を維持しました。

2024年の市場別スイス時計輸出額

主要国別では、アメリカ(+5.0%)が4年連続で成長し、最大市場の地位を強化しました。中国はコロナ禍時よりも大きな縮小となり、2019年の水準に近づいています。香港も需要低迷で順位を落としました。日本(+7.8%)は主に観光客の購入に支えられ3位に浮上し、最も活発な市場のひとつとなりました。シンガポール(-2.1%)は世界平均並み、韓国(+8.7%)は前年の減少を取り戻す形となりました。
ヨーロッパ内の動きは比較的小さく、イギリス(-1.6%)、フランス(+2.5%)、ドイツ(-3.8%)、イタリア(-1.6%)はいずれも狭い範囲での変動でした。

では早速「2024年スイス時計売上ランキングトップ20」を見てみましょう。

2024年スイス時計売上ランキングトップ20

Ranking of the Top 20 Swiss watch brands by sales since 2017 – Source: LuxeConsult, Morgan Stanley research. This chart cannot be reproduced without Morgan Stanley’s express authorization

今年発表されたランキングを2023年と比較すると、なんとTOP10位は変動なし、という結果。
今年のランキングについてざっと見てみましょう。

1位はやはり絶対王者、ロレックス(ROLEX)です。前年売上高101億スイスフランからさらに伸ばして105億スイスフランに。小売市場シェアも30%→32%と伸ばしており、もはや向かうところ敵なし。
以下についても売上高を前年と比較すると、2位のカルティエは31億→31.8億スイスフラン、3位のオメガは26億→23.9億スイスフラン、4位オーデマ・ピゲは23.5億→23.8億スイスフラン、5位パテック・フィリップは20.5億→23億スイスフラン、6位リシャール・ミルは15.4→15.5億スイスフラン、7位ロンジンは11.1億→11.2億スイスフラン、8位ヴァシュロン・コンスタンタンは10.9億→9.4億スイスフラン、9位ブライトリングは8.7億→8.5億スイスフラン、10位ティソは8.2億→7.6億スイスフランとなっています。

「ビッグ 4」としても知られる独立系ブランド、ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、リシャール・ミルは、この厳しい環境下でも依然として成長を続け、カルティエとオメガという上場企業が所有する2つの高業績ブランドを除いても、前年の44%からさらに伸ばして、47%という驚異的な市場シェアを獲得しています。

上位5位の中ではオメガだけやや売上を落としており、8位以降のブランドも売上はやや減少傾向が見受けられます。前年10億スイスフランを突破して”ビリオネアクラブ”入りしたヴァシュロン・コンスタンタンは、8位という順位はキープしたものの、残念ながらクラブ脱退となっています。

タグ・ホイヤー、スウォッチ、エルメス、ブルガリは順位を上げ、IWC、ウブロ、ジャガールクルト、チューダーは順位を下げています。タグ・ホイヤーが15位→11位、エルメスが16位→13位とジャンプアップする一方で、チューダーは17位→21位と、トップ20圏外へと転落しています。代わりにTOP20位入りを果たしたのは19位のシャネルです。ショパールは3年目の20位をキープしています。

2024年-スイス時計上位50ブランドの売上高および小売・卸売推定額

2024 – Swiss watch brands: Morgan Stanley’s estimates of the top 50 brands’ turnover and retail/wholesale values in 2024 – Source: LuxeConsult, Morgan Stanley Research estimates. This chart cannot be reproduced without Morgan Stanley’s express authorization

50位まで見渡すと、44位から36位と大幅に順位を上げたのはシチズングループ傘下のフレデリック・コンスタント。また、前年36位のハリー・ウィンストンは47位へ順位を下げ、前年49位のベルロスと、前年初めてTOP50入りしたグルーベル・フォルセイは再びランク外へ。2024年、代わりにTOP50にランクインしたのはレイモンド・ウェイル(42位)とMB&F(50位)です。

レポートでは、「カルティエ、ブルガリ、ヴァン・クリーフ&アーペルが最も好調で、市場シェアを拡大した」と報告しています。
その他の重要なトレンドとして独立系時計ブランドが、過去数年間の目覚ましい成長に続き、2024年も成長を続けると予測しています。
F.P.ジュルヌ(37位)、H. モーザー(38位)、MB&F(50位)といった、前年目覚ましい成長を遂げた独立系時計ブランドは、売上好調です。

独立系ブランドは、市場シェア、売上、そしてブランド認知度の面で確実に存在感を示しています。例えば、映画スターのロバート・デ・ニーロやジョン・メイヤーなど、多くの著名人を顧客に持つF.P.ジュルヌがその好例です。
ちなみにF.P.ジュルヌもMB&Fも実はシャネルが株式を取得していますが、その関係は戦略的パートナーシップであり、独立性を保ったまま快進撃を続けています。

2024年はスイスの時計業界にとって厳しい環境となり、50ブランドのうち、前年から成長が見込まれるブランドはたった11社でした。また、上位50ブランドの合計推定売上高は前年36兆1270億スイスフランから2024年には35兆2580億スイスフランと減少率は2.5%ほどですが、販売本数は約1590万個から1336万個と16%ほど減少しており、これは、この1年で時計の平均価格が大幅に上昇したことを示しています。レポートでは「小売価格が5万スイスフランを超える時計は、スイス時計輸出総額の33.5%を占め、2024年には84%という驚異的な成長率を記録した」と報告されています。

モルガン・スタンレーのレポートを詳細に見ると、ここ数年指摘されていた「二極化」という傾向が裏付けられた結果と言えるでしょう。
ロレックス、カルティエ、オメガ、パテック・フィリップの上位4つのブランドだけで総売上の53.6%を占め、前年の50.2%からさらにシェアを伸ばしています。

ブランド別市場シェア

Estimated retail market share by brand in 2024 – Source: LuxeConsult, Morgan Stanley research. This chart cannot be reproduced without Morgan Stanley’s express authorization

ロレックスが32.1%と圧倒的なシェアを占めており、恐らく今後このブランドを撃墜するブランドは登場しないのではないかと思われるほどです。前年順位が逆転して動向が注目された2位のカルティエと3位オメガは、その差が広がり、明暗が分かれ始めています。オメガが巻き返せるのか、というのは2025年1つの注目ポイントとなるでしょう。4位パテック・フィリップと5位オーデマ・ピゲもそのシェアを伸ばしています。

それではここからは、2024年スイス時計業界の推定売上高ランキングの上位10ブランドについてさらに詳しくご紹介します。

1位:ロレックス(ROLEX)

スイス高級時計業界の不動の王者ロレックスが、2024年も推定売上高ランキング堂々の第1位でした。2024年のロレックスの推定売上高は、105.8億スイスフラン。絶好調2位のカルティエですら31.8億スイスイフランとその差は約74億スイスフランもあり、差は広がり続けています。

ロレックスのエントリーブランドであるチューダーはさらに順位を下げましたが、市場のリーダーであるロレックスは推定市場シェア32%とシェアを伸ばしており、例えば2024年推定売上高ランキング2位~5位にランクインした4つのブランド(カルティエ、オメガ、オーデマ ピゲ、パテック フィリップ)の売上高をすべて足しても102億スイスフランと、ロレックスの売上高には届かないのですから驚くしかありません。

2023年と比較して、出荷本数が124万本から117万本へ減っているのに売上が増加しているのですから、売上増加の背景には値上げの影響もあるでしょう。ロレックスは2024年1月、6月に価格改定を実施しています。2025年1月にも値上げを実施しましたから、今後も売上増加傾向は続きそうですね。

ロレックスは2024年4月に新作を発表、新色グレー/ブラックのセラクロムベゼルを採用したGMTマスターII 126710GRNR、オールゴールドモデルのディープシー 136668LB、マザー・オブ・パールダイヤルやダイヤベゼルモデルを大幅増強したデイトナ、新コレクション「パーペチュアル 1908」などが追加されました。

中古市場においても圧倒的なリセールバリューを誇っていたロレックスですが、2022年3月のピークを迎えた後は下落傾向に転じました。これは価格が急騰した後、中古腕時計が大量に市場に出回り、供給量が3倍以上増えたのに連動して、価格が下落したことと、それに伴って以前よりは正規店で購入がしやすくなったことが背景として考えられます。2年以上が経過し、価格下落のペースは緩やかとなってきており、需要自体は依然として堅調で、中古時計市場が安定に向かいつつある状況です。

日本でもついにロレックス表参道にて国内初のRCPO(ロレックス認定中古時計)プログラムが始まり、市場の健全性がより強化されることが期待されています。

2位:カルティエ(CARTIER)

モルガン・スタンレー発表による2024年の推定売上高ランキング第2位は、カルティエでした。カルティエの売上高は31.8億スイスフランで、これで5年連続の2位、そろそろ定着してきた感がありますね。2022年から売上高推移を見てみると、27.5億スイスフラン→31億スイスフラン→31.8億スイスフランと成長は鈍化したように見えますが、増収している数少ないブランドの1つです。販売本数も66万本から68万本へ増加しています。

カルティエは2024年も5月に価格改定(値上げ)と行っています。カルティエはリシュモンの「ジュエリーメゾン」(Buccellati、Cartier、Van Cleef & Arpels)の一つとして主要な役割を担っており、時計部門よりはやはり宝飾部門が好調だったようです。市場シェアにおいても、3位のオメガとの差を徐々に広げています。

カルティエはWatches&Wonders 2024において過去の名作「トーチュ」を復活させ時計愛好家を唸らせつつ、「サントス」「サントス デュモン」「パンテール」などの定番人気モデルのバリエーションを増強しました。また、日本に最初のブティックをオープンさせてから50年目という節目を祝し、タンク・フランセーズやサントス、パンテールの日本限定モデルもリリースしています。秋冬にも「タンク ルイ カルティエ」のミニモデルなどの新作を発表し、日本の俳優・賀来賢人さんをグローバルアンバサダーに起用するなど、積極的なプロモーションを行っています。

カルティエは中古腕時計市場でも人気をキープしており、比較的手ごろな「マストタンク」なども需要が高まっています。

カルティエはリシュモンの中核ブランドとして、売上・利益成長の牽引役を果たしており、今後も積極的な投資とグローバル展開、サステナビリティ推進が続く見通しです。

3位:オメガ(OMEGA)

オメガは3位という順位は維持したものの、2024年推定売上高は23.9億スイスフランで、前年の26億スイスフランからややマイナスとなり、販売本数も2023年の57万本から50.5万本に減少しました。スウォッチグループのトップブランドとして稼ぎ頭のオメガですが、市場シェアでは前年の7.5%から7.0%に低下し、好調なカルティエとの差がじわじわと広がりつつあります。

オメガは2024年3月1日にゴールドモデルを2~3%値上げしていますが、影響は限定的だったと思われます。
2024年のオメガ新作では、 俳優ダニエル・クレイグが「匂わせ(?)」で話題を呼び、2024年3月に発売したホワイトダイアルの「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」「シーマスター ダイバー300M」「スピードマスター ファースト オメガ イン スペース 310.30.40.50.06.001」など、概ね好評ではありますが、爆発的なヒットとはいかなかったようですね。2025年新作にも期待したいところです。

4位:オーデマ・ピゲ(AUDEMARS PIGUET)

2023年に引き続き4位をキープしたオーデマ・ ピゲ。販売台数は5.1万本でほぼ横ばいですが、力強い成長軌道を継続し、2024年の推定売上高は23.8億スイスフランで、前年の23.5億スイスフランからやや増収となりました。2022年にブランド史上最高の売上高20億スイスフランを突破して以降、順調に記録を更新しています。

オーデマ・ ピゲは2024年8月に4~5%値上げを実施しました。圧倒的な資産価値を誇る「ロイヤルオーク」や、いよいよ人気が定着してきた「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」も拡充しつつ、2024年は「ロイヤル オーク ミニ」を発表し、レディースモデルにも新たな風を吹かせています。ニューヨークのアーティスト、KAWSとのコラボレーションによる「ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン ”コンパニオン"」なども注目を集めました。

独立した家族経営を貫くオーデマ・ピゲにおいて、30年に長きに渡り実績を残してきたフランソワ-アンリ・ベナミアス氏に代わり、2024年にはイラリア・レスタ氏が新CEOに就任しました。就任にあたって、スイス・イタリア国籍を持つレスタ女史はフィルメニッヒ、P&Gでキャリアを積んだ、明確な戦略的思考を持つ人物として紹介されており、さらなる長期的成長が期待されています。
創業150周年を迎える2025年もすでに新作を発表しており、大きな不安要素もなく、このまま堅調な成長を維持することが予想されます。

5位:パテック・フィリップ(PATEK PHILIPPE)

推定売上高ランキング5位はパテック・フィリップで、この不況下にあっても2023年の20.5億スイスフランから約12%伸び、23億スイスフランと推定されています。販売本数も7万本から7.2万本に増加し、市場シェアも5.6%から6.5%と躍進し、オメガの7%に肉薄。堅調さが際立っています。

パテック・フィリップはWatches&Wonders 2024にてデニム柄カーフストラップを合わせた「パテック フィリップ ノーチラス フライバック・クロノグラフ 5980/60G-001」や「ワールドタイム 5330G-001」などの新作を発表しています。しかしパテック・フィリップの2024年最大のニュースは全く新しいコレクションである「キュビタス(Cubitus)」が発表されたことでしょう。
圧倒的な資産性から投資目的で購入希望者も多い「ノーチラス」の面影も残しつつ、スクエアケースを採用しています。現時点では流通量も少なく、中古市場では定価の倍以上のプレミアがついていますが、長期的な資産性については未知数です。

なお、パテック・フィリップは2024年9月1日に価格改定しています。2025年も好調さを維持すると予想され、市場シェアでオメガを抜く日もそう遠くないかもしれません。

6位:リシャール・ミル(RICHERD MILLE)

2024年推定売上高ランキング第6位は、リシャール・ミルです。売上高は前年の15.4億スイスフランから伸びて15.5億スイスフランに、販売本数は5,600本から5,700本といずれもやや増加。市場全体の下降傾向に逆らい、着実に数字を伸ばしている数少ないブランドの1つです。ここ数年TOP10内をキープするだけでなく、じわじわと順位を上げてきていますね。

リシャール・ミルは2001年に誕生した比較的新しいブランドですが、その独自のコンセプトとステータス性から、日本でも富裕層を中心に販売数を着々と伸ばし、着実に知名度も上げています。億超えの超高価格帯の腕時計を展開しており、ランキングトップ10のブランドを見渡してもその販売本数の少なさはまさに「桁違い」です。
ラグジュアリーに特化したブランドとして、二極化のなかでより評価は高まり、今後も堅調な成長が見込まれます。

7位:ロンジン(LONGINES)

2024年推定売上高ランキング第7位は、スウォッチグループの「ハイレンジ」クラスの筆頭格、ロンジンです。推定売上高は11.2億スイスフランと前年とほぼ変わっていませんが、販売本数が160万本から95万本と約40%も減少しており、単価が上がっているとしてもこの売上高の推定値にはちょっと疑問も?
以前から中国市場への依存度の高さが懸念事項でしたが、2024年は年間を通じて中国の高級品需要の大幅な落ち込みが続き、苦しい1年となったようです。

かつてはロレックス、オメガ、カルティエに次ぐ4位に位置づけていたこともあるロンジンですが、6位のリシャール・ミルとは対照的にここ数年順位を落としています。中国以外での顧客獲得が課題ですね。

8位:ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)

2024年推定売上高ランキング第8位は、1755年創業の老舗高級時計メゾンであるヴァシュロン・コンスタンタンです。
販売本数は、2023年の35,000本から2024年には31,000本に減少しました。2023年の推定売上高が10億9700万スイスフランと大台に乗り、「ビリオネアクラブ」に加入した、と伝えられていましたが、残念ながら2024年は9億4200万スイスフランと10億スイスフランの基準を下回ったため、1年で脱退という結果に。

カルティエに続くリシュモン グループ第2のブランドとして名目は保ったものの、小売市場シェアは2.7%から2.5%とやや減少しています。一方「世界三大時計ブランド」として並び称されるパテック・フィリップは6.5%、オーデマ・ピゲは5.2%と伸長しており、差が広がった形です。
2025年にブランド創業270周年を迎え、2016年入社のローラン・ペルヴェス氏が新CEOに就任。その手腕にも注目の1年となりそうです。

9位:ブライトリング(BREITLING)

2024年推定売上高ランキング第9位は、ブライトリングです。2024年の推定売上高は前年の8.7億スイスフランから8.5億スイスフランへ減少、販売本数も17.8万本から16万本へと減少しています。市場全体の傾向と重なる結果ではありますが、ブライトリングの売上減少幅はさほど大きいものではなく、比較的堅実なパフォーマンスを維持できている、と見ることもできるでしょう。
平均単価が約1割上昇している点については、2024年1月の値上げ率を上回っており、高価格帯の商品も売れたことが窺えます。特に日本市場では順調で、CEOのジョージ・カーンによると日本では2021年〜2024年の売上高は5割近く増加しているとのこと。

ブライトリングは「クロノマット」「ナビタイマー」など主力モデルの改良やレディースモデルの開発などを積極的に行いつつ、「買いやすい値段」を維持。ヴィクトリア・ベッカムとのコラボレーションウォッチをリリースしたことも記憶に新しく、今やレディースモデルが売り上げ全体の15%を占めるまでになり、増収の推進力となっています。

創業140周年を迎えた2024年はパリのシャンゼリゼ通りに400平米のポップアップストアのオープンさせ、2025年に常設のブティックを開店することを発表しています。ブティックは年間50〜70店増やしており、日本でも2025年2月に国内百貨店2店舗目となるブティックを大丸東京店にオープンしました。攻めの姿勢を崩さないブライトリング、2025年の成長にも期待したいですね。

10位:ティソ(TISSOT)

2024年推定売上高ランキング第10位はティソです。スウォッチグループの「ミドルレンジ」に属するティソは、ラグスポブームに乗って2021年に再デビューさせた「PRXシリーズ」の成功で2023年にTOP10に見事に返り咲きを果たし、2024年もその地位を維持しましたが、2024年の推定売上高は前年の8.25億スイスフランから7.6億スイスフランに、販売本数は310万本から255万本に減少しています。

「PRXシリーズ」は引き続き好調で、売上を支えています。中国市場への依存度が高く2024年もその影響は大きかったと見られるティソですが、2024年はブランドにとって中国に次ぐ時計市場である米国で初めて1億米ドルを超えるなど、良いニュースも入ってきています。

NBAのオフィシャルタイムキーパーも務めているティソは、トニー・パーカー、クレイ・トンプソン、デイミアン・リラードなど、NBAのトッププレーヤーをブランドアンバサダーとしても迎えていますが、2024年には河村勇輝選手をブランドアンバサダーに迎え日本でのプロモーションを強化。世界第3のスイス時計輸出市場である日本での認知度向上と売上増加は今後も必須の課題と言えるでしょう。

トップ10以下は、11位にタグ・ホイヤー、12位にスウォッチ、13位にエルメス、14位にIWC、15位にジャガー・ルクルト、16位にウブロ、17位にブルガリ、18位にパネライ、19位にシャネル、20位はショパールという結果でした。

2023年に17位だったチューダーが21位に転落する一方、22位だったシャネルが19位へと浮上。2023年に15位まで順位を下げたタグ・ホイヤーも2024年は11位と、好調さを取り戻しつつあります。

エルメス

2025年4月に欧州高級ブランド時価総額がLVMHを抜いて首位に立ったことでも話題のエルメスは、2023年16位からさらに順位を上げて13位。エルメスは富裕層の顧客基盤により業界全体の低迷を乗り切る体制が出来上がっている上、時計作りにおける独創性と比類なき職人技は、目の肥えた富裕層を満足させるものです。2025年も快進撃は続くと見込まれます。

スウォッチ

オメガのスピードマスターコラボ「ムーンスウォッチ」が相変わらず好調なスウォッチも、2023年と比較すると推定売上高は6.6億スイスフランから5.6億スイスフランに、販売本数も580万本から490万本へと減少し、順位を11位から12位へとひとつ落としました。ブランパンとのコラボ「BIOCERAMIC SCUBA FIFTY FATHOMSコレクション」とともに継続的に新作が投入されていますが、そろそろこのシリーズにも飽きが来た、という声も。新たな一手はあるのでしょうか。

グループ別市場シェア

Estimated retail market share by group in 2024 – Source: LuxeConsult, Morgan Stanley research. This chart cannot be reproduced without Morgan Stanley’s express authorization

レポートによれば、現在スイスの時計業界の売り上げの4分の3以上を、ロレックス、スウォッチ、リシュモン、パテック フィリップの4つのグループが占めており、LVMHは現在、市場シェア5.7%で5位に位置しています。市場の集中は否定できず、ごく一部を除き、強い者はより強く、弱い者はより弱くなりやすい傾向が否めません。

ここでは、2024年のスイス時計業界のグループごとの市場シェアをご紹介します。

推定小売市場シェア率でも、絶対王者であるロレックスの無双状態で、シェア率は33.2%と、2023年の31.9%よりさらにシェアを伸ばしています。このシェア率は、ロレックスのディフュージョンブランド・チューダー(TUDOR)も含まれています。

あくまで推定ではありますが、2024年のチューダーの売上高は3.6億スイスフランと、前年と比べ約33%ダウンし、また2024年の販売本数も16万本と、2023年の25.5万本と比べて40%以上の減少となりました。チューダーはTOP20からも脱落し、かなり厳しい1年だったようです。ただその事実を持ってしても、ロレックスの圧倒的な強さは揺らがないということですね。

チューダーも「チューダー ブラックベイ クロノ “ピンク”」というヒット作を生み出しましたが、こちらは数量限定でしたので、大きく売り上げ貢献するには至らなかったようです。続いて2025年にリリースされた「ブラックベイ クロノ ”フラミンゴブルー” 」もヒットしていますが、こちらも効果は限定的となりそうですね。

スイス時計業界で2位のシェア率を誇るのは、世界最大の時計グループであるスウォッチグループです。ただし、2023年19.4%から2024年は18.3%へとややシェアを下げています。スウォッチグループの傘下には、オメガ、ブレゲ、ブランパン、ロンジン、ティソなど多数のブランドがあり、基本的には4つの価格帯の種類で、ラグジュアリー、ハイレンジ、ミドルレンジ、ベーシックレンジに分けられています。

スウォッチ2024年業績

スウォッチグループの2024年の決算報告書によると、売上高は67億3,500万スイスフランで、前年と比較すると為替レート固定で12.2%減、現行レートで14.6%減となりました。営業利益は2023年の11億9,100万スイスフランに対し、前年比でなんと74.5%減の3億400万スイスフランとなり、営業利益率は15.1%から4.5%へと急低下しました。

スウォッチグループはその原因を「パリ・オリンピックなどへの市場投資」と「依然として厳しい市場状況と、中国における消費財全般に対する需要の低迷」と説明。香港とマカオを含む中国での売り上げは2024年、約30%減少し、「中国の観光客に大きく依存している」東南アジア市場では、「消費財の需要が大幅に落ち込んでいる」と付け加えています。

一方で、主要市場である米国、日本、インド、中東では、現地通貨ベースで過去最高の売上高を達成。米国では、オメガ、ロンジン、スウォッチが好調で、第3の輸出市場である日本では、ハリー・ウィンストン、オメガ、ロンジン、スウォッチが2桁台の高成長を達成したとのこと。

また、「プレステージ&ラグジュアリーレンジ」に属するグラスヒュッテ・オリジナルの販売本数は、2023年の16,000本から2024年には6,800本と大幅に減少する見込みですが、売上高は5,500万スイスフランを維持しています。これは、高級セグメントの業績向上と平均単価の上昇を示唆しています。
ただ、同じくプレステージブランドのブレゲとブランパンは、特に厳しい市場環境の影響を受け不調に終わりました。
特にブレゲは販売本数が2万本から7,400本へと激減、収益も2.1億スイスフランから1.65億スイスフランへと大幅に減少しました。スウォッチ傘下で最も高い評価を得ているブランドの一つであるブレゲは、深刻な苦境に立たされています。

2024年は中国関連の需要急減と為替が重荷となり、大幅減収減益となったスウォッチグループ。ただ財務基盤は堅固で、米国・日本など好調市場と新製品をテコに2025年の回復を見込んでいるようです。
2025年は傘下のブランパンが290周年(1735年創業)、ブレゲが250周年(1775年創業)、グラスヒュッテ・オリジナルが180周年(1845年創業)と、周年ラッシュを迎えます。これを好材料に業績の巻き返しを期待したいところですね。

シェア率17.8%で第3位はリシュモングループ。スイス系のコングロマリットで、カルティエ、ヴァシュロン・コンスタンタン、A・ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルト、パネライ、IWC、ヴァン・クリーフ・アーペル、ロジェ・デュブイ、ピアジェ、モンブラン、ボーム&メルシエなどを傘下に収めています。

2024年の推定売上高ランキングには、実績好調な稼ぎ頭のカルティエが売上を伸ばして2位をキープしたものの、8位ヴァシュロン・コンスタンタンは順位を維持したものの10億スイスフランに届かず「ビリオネアクラブ」から脱落、IWCも11位から14位へ順位を落としました。

リシュモン2024年業績

リシュモングループの2025年3月通期決算では、売上高が前年同期比4%増の213億9,900万ユーロで過去最高を記録したと発表しています。年間継続事業の利益は38億ユーロで、1%減に止まりました。
厳しい環境におけるこのリシュモンの力強い業績は、売上高が実勢および一定率で8%増の153億2,800万ユーロ、営業利益率は31.9%となったジュエリー部門(特にカルティエとヴァン クリーフ&アーペル)のおかげで確保されたものです。不確実な時期における貴金属への資金流入と価格上昇も売上高を支えています。一方で、時計部門の売上高は13%減少し、32億8,300万ユーロ、営業利益率はわずか5.3%と振るいませんでした。ただし下期は減少幅が縮小し、アメリカ大陸が顕著な伸びを示しているため、2025年への期待を残しています。

現在、事業全体の売上高においてジュエリー部門は71%、時計部門は15%を占めています。
時計部門は特に中国・香港の需要減の影響を大きく受けましたが、経済不況やファッションの流行に比較的左右されにくいジュエリー部門はアジア太平洋を除く全地域で2桁成長、さらに直販比率は84%に上昇し、高級品需要の低迷を同業他社よりも耐え抜いた形です。

地域別で見ると、リシュモンの事業はほとんどの地域で2桁増加し、中国・香港・マカオにおける消費者心理の低迷によるアジア太平洋地域(-13%)の落ち込みを補って余りある結果に。為替レートを一定にした場合、日本(+30%)、南北アメリカ(+15%)、欧州(+11%)、中東・アフリカ(+14%)の売上高は増加しました。

営業キャッシュフローは44億ユーロ、期末の純現金は83億ユーロと健全な財務体質を維持しているリシュモングループ。2024年はイタリア発のジュエリーブランド「ヴェルニエ(Vhernier SpA)」の全株式を非公開で買収していますが、今後も成長投資とグローバルポートフォリオの多様化を継続していくでしょう。

2025年は、中国人の消費者による高額商品の買い控えや、トランプ米大統領の関税政策がやや不安要素としてありますが、リシュモンのヨハン・ルパート会長は「中国では最終的には需要回復が見込まれ、米国は関税を交渉の手段として用いているに過ぎない」と楽観的な姿勢を示しており、強者の余裕すら感じさせますね。

モルガン・スタンレーのレポートによると、2024年のグループ別の市場シェアではパテック・フィリップが6.5%で4位となり、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の時計部門全体のシェア5.7%を追い抜きました。
LVMHグループにはタグ・ホイヤー、ウブロ、ゼニス、ブルガリ、ルイ・ヴィトン、ディオールなどの高級時計ブランドが名を連ねています。
2024年のモルガン・スタンレーの推定売上高ランキングには、11位にタグ・ホイヤー、16位にウブロ、17位にブルガリがランクインしています。2023年からタグ・ホイヤーは4つ、ブルガリが2つ順位を上げる一方、ウブロは4つ順位を下げています。

LVMH2024年業績

LVMHグループ全体での2024年度決算(2024年1月〜12月)によると、売上高は前年度比1.7%減の846億8300万ユーロ(約13兆7,495億円)、営業利益は同14%減の195億7100万ユーロ、純利益は同17%減となる125億5000万ユーロ(約2兆379億円)と落ち込みました。

地域別の売上内訳を見ると、円高の影響で日本が2桁成長となり、アメリカとヨーロッパも第4四半期はそれぞれ3%増、4%増と堅調だった一方、日本を除くアジアは通年で11%減と大きく落ち込み、中国市場の不振が続いていることが窺えます。
時計および宝飾品事業グループの売上高が前年比2.6%減の105億700万ユーロと報告されています。経常利益は28%減少しており、店舗の改装や広報活動への継続的な投資や為替レートの変動が一因と報告されています。

2025年4月の第1・四半期決算で売上高が前年同期比3%減となったことが発表された後、投資家の間で悲観的な見方が広がり、欧州高級ブランド時価総額首位の座をエルメスに明け渡したLVMH。
LVMHは高級ブランドでも低価格帯の比重が増えている一方で、エルメスは富裕層の顧客基盤により業界全体の低迷を乗り切ることができていると見られています。
貿易面の緊張により世界的な景気後退に陥るとの懸念が強まっており、LVMHも構造上しばらくは苦戦を強いられることになるのではないでしょうか。

営業利益率やキャッシュフローは高水準を確保しているLVMH。2025年に向けては「2025年にラグジュアリー品における世界的なリーダーとしての地位を強化するという目標を改めて設定」し、「継続的なイノベーションと投資、製品の魅力と品質の徹底的な追求、そして厳選された流通を基盤としたブランド開発重視の戦略を推進していきます。」 と自信を示しています。
2024年にLVMHとフォーミュラ1との10年間のグローバル・パートナーシップが発表され、2025年にはタグ・ホイヤーがフォーミュラ1のオフィシャルタイムキーパーとして、世界中のサーキットで使用されることが決定しています。タグ・ホイヤーにとっては再び存在感を示す好材料となるかもしれませんね。

モルガン・スタンレーのレポートによれば、2024年のスイス時計業界は、「ビッグ 4」としても知られる独立系ブランド、ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、リシャール・ミルがこの厳しい環境下でも堅実に成長を続け、合計で47%という驚異的な市場シェアを獲得する一方で、上場企業3社(LVMH、リシュモン、スウォッチ)はいずれも市場シェアを失う、という結果になりました。F.P.ジュルヌやH. モーザー、MB&Fといった独立系ブランドの健闘もトピックでしたね。

では、2025年のスイス時計業界の展望はどうでしょうか。
なかなか先行きの見通しづらい状況ですが、2025年のスイス時計業界は、数量面では縮小傾向が続く一方で、高価格帯・希少性重視の戦略や新興市場の成長には期待が持てそうです。

米国市場や中国の回復動向、ブランドの周年記念施策なども注目ポイントです。
スイス時計業界は米国市場への依存度が高く、2024年には米国向け輸出が前年比5%増、約44億スイスフラン(約7568億円)に達しています。米国による大幅な関税引き上げで、スイス製品には最大31%の関税が課される方針が示されましたが、中国市場が低迷する中、最大の輸出先となっている米国で31%もの関税が実行されれば、売上減・利益圧迫は避けられないでしょう。
すでに一律10%の関税は適用されており、一部のブランドでは米国価格を引き上げを実施しています。

また米中の関税合戦が長引けば、中国の景気回復がより遠のく可能性があり、中国市場への依存度が高いブランドはもちろん、業界全体への影響が懸念されます。

最後に、一般社団法人日本時計協会のデータによると、2024年の日本の時計市場は、国内腕時計市場の小売金額ベースで1兆2160億円と推定されています。これは、2023年と比較して10.2%の増加を示しています。また、2021年から3年連続でプラス成長を続けており、背景には若年富裕層からの高級時計への需要拡大や、訪日外国人観光客の旺盛な需要が戻ってきたこと、サステナブルな機械式時計が再評価されたことなどが考えられます。
一方で、トランプ大統領の政策などにより為替が円高方向に動き、また前年度の円安と値上げ前の駆け込み需要による反動などの影響で、2025年は訪日客の高額商品を買い控える傾向も見られ始めています。
2025年も為替などの外的要因によらず、本質的な競争力を高めていくことがどのブランドにも求められています。




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