更新日:2024年10月09日
スイス発祥の高級時計は、長きに渡り世界中の時計愛好家を魅了してきました。その中でも、スウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループの3大勢力は、多様なブランドを傘下に収め、時計業界を牽引しています。
いずれにも属さず、独立ブランドとして展開している「ロレックス」「パテック・フィリップ」「オーデマ・ピゲ」「ブライトリング」などもありますが、上記3大グループは巨大資本を元に時計メーカーを次々と買収し、勢力を拡大しています。
それぞれのグループが持つ特徴や戦略、そして業界全体の動向を深掘りし、時計選びの参考にしていきましょう。
スウォッチグループ(SWATCH GROUP)は、時計業界最大のコングロマリットとして知られています。Swatch(スウォッチ)のようなカジュアルな腕時計から、Omega(オメガ)、Breguet(ブレゲ)といった歴史ある高級時計まで、幅広いブランドを展開しています。
スウォッチグループ傘下の時計ブランドは以下の通りです。
1970~80年代、スイスの時計産業は、日本製のクォーツ時計の出現による「クォーツショック」と呼ばれる危機に直面していました。この危機を打開するため、1983年にスイスの2大時計メーカーであったASUAGとSSIHが合併し、SMH(後のスウォッチグループ)が誕生しました。
この合併を主導したのが、ニコラス・G・ハイエックです。彼は、従来の高級時計のイメージを覆す、カラフルでポップなデザインの腕時計「スウォッチ」を開発し、若者を中心に大きな人気を集めました。スウォッチの成功は、スイス時計産業の再生を牽引し、SMHグループの成長を加速させました。
その後、SMHグループは、様々な時計ブランドを買収・統合し、現在のスウォッチグループへと発展しました。1998年には、社名を「スウォッチグループ」に変更し、世界最大の時計メーカーとしての地位を確立しました。
スウォッチ・グループは、属する時計ブランドが必要とするほぼすべての部品を供給しており、スウォッチ・グループ各社は、スイスをはじめとする世界中の時計メーカーにムーブメントや部品を供給しています。
2024年現在、スウォッチ・グループは50カ国以上で33,500人以上の従業員を擁しています。2023年の売上高は78億8800万スイスフランにのぼります。
オメガは、スイスを代表する高級時計ブランドの一つです。その歴史は古く、1848年にルイ・ブランによって創業されました。高精度なムーブメントと洗練されたデザインで知られ、世界中の時計愛好家から高い評価を得ています。オメガの時計は、その高い精度と耐久性で知られています。特に、スピードマスターはNASAの公式腕時計として採用され、月面着陸にも同行したことでその信頼性を証明しています。
スウォッチとのコラボモデル”ムーンスウォッチ”は世界中で爆発的な人気となりました。
オメガの代表的な時計モデルには、以下のようなものがあります。
ブレゲは、18世紀後半にアブラアン・ルイ・ブレゲによって創立された、世界で最も古い高級時計ブランドの一つです。トゥールビヨン、永久カレンダー、ミニッツリピーターなど、時計製造における数々の革新的な技術を生み出し、現代の時計製造に多大な影響を与えています。ギョーシェ彫、ブレゲ針、ブレゲ数字など、細部にまでこだわった芸術的な美しさも特徴的で、希少性と高い品質から、コレクターからも高い評価を得ています。
ブレゲは、18世紀後半にアブラアン・ルイ・ブレゲによって創立された、世界で最も古い高級時計ブランドの一つです。時計製造における数々の革新的な技術をみ出し、現代の時計製造に多大な影響を与えています。
ブレゲの代表的なモデルには、以下のようなものがあります。
ブランパンは、1735年スイスのジュラ渓谷で創業された、世界最古の時計ブランドとして知られています。長い歴史の中で培われた卓越した技術力と、伝統的なデザインを融合させたタイムピースは、多くの時計愛好家を魅了し続けています。機械式時計のみを製造するブランドとしても知られ、クォーツショックの時代においても、機械式時計の製造を続けました。自社製ムーブメントの開発に力を入れており、高い精度と信頼性を誇る時計を生み出しています。
2023年にはスウォッチとのコラボモデルも発表され、ブランドにも注目が集まりました。
ブランパンの代表的なモデルには、以下のようなものがあります。
スウォッチグループの擁するブランドは、価格帯や購買層によって4レンジに分類されています。
「プレステージ&ラグジュアリーレンジ」にはオメガ、ブレゲ、ブランパン、ハリー・ウィンストン、ジャケ・ドロー、グラスヒュッテ・オリジナルなどのハイエンドな6ブランドが含まれます。以下、「ハイレンジ」にはロンジン、ラドー、ユニオン・グラスヒュッテ、「ミドルレンジ」にはティソ、ミドー、ハミルトン、サーチナ、「ベーシックレンジ」にスウォッチ、フリック・フラックなど、それぞれの特色あるブランドが顔を揃えています。
このように幅広い価格帯のブランドを展開することにより、あらゆる層の顧客をターゲットにできるという強みを持っています。 また、スポーツウォッチ、エレガントなドレスウォッチ、ファッションウォッチなど、ブランドごとに異なるイメージを持つことで、消費者の多様なニーズに応えています。
スウォッチグループはETA社などムーブメントメーカーを傘下に収めることで、自社でムーブメントを製造し、コスト削減と品質管理の徹底を実現しています。
非常に高い精度と耐磁性を備えたオメガの「マスタークロノメーター」、わずか51個の部品で構成されるスウォッチの機械式ムーブメント「Swatch Sistem51」、ロンジンはスマートウォッチとの連携が可能なモデルも発表するなど、時計の新しい可能性を追求する動きも活発です。スウォッチグループに属するブランドは、それぞれが独自の強みを持ちながら、革新的な技術開発に取り組んでいます。
スウォッチグループは、世界最大の時計製造グループとして、多様なブランドを傘下に収め、それぞれのブランドが強みを生かしたマーケティング戦略を展開しています。
オメガは、ジェームズ・ボンド映画とのコラボレーションや、オリンピックのオフィシャルタイムキーパーを務めるなど、ブランドイメージを高めています。スウォッチは、ポップでカラフルなデザインと手頃な価格、アーティストやデザイナーとのコラボレーションモデルなどで、若い世代にアピールしています。
また、オンラインストアの充実やSNSを活用したマーケティングなど、デジタルマーケティングにも積極的に取り組んでいます。
自社ブティックや百貨店など、世界中に広がる販売網を持ち、どこでもスウォッチグループの時計を購入することができます。
リシュモングループ(Richemont)は、スイス系のコングロマリットとして知られており、カルティエ、ヴァシュロン・コンスタンタン、IWCといった、世界最高峰の高級時計ブランドを擁しています。伝統的な時計作りの技術と、現代的なデザインを融合させた独創的な時計を生み出すことで、高い評価を得ています。
リシュモングループの時計ブランドは以下の通りです。
1988年に実業家のヨハン・ルパート(Johann Rupert)氏が創業、徐々に高級時計ブランドの買収を進めていきます。
1993年にはカルティエが正式にリシュモン傘下のブランドに。ジャガー・ルクルト、ピアジェ、ヴァシュロン・コンスタンタン、IWCシャフハウゼンなどを傘下に収め、現在のリシュモングループの基盤を築きました。その後もブランドを買収し、事業を拡大してきました。
リシュモングループは、高級時計ブランドを中核とした多角的な事業展開により、ラグジュアリー業界を代表する企業へと成長しました。歴史と伝統を重んじながら、常に革新を追求し、顧客に最高の体験を提供することを目指しています。 2024年3月通期決算では売上高が前期比3.3%増の206億1600万ユーロ(約3兆4841億円)となりました。そのうちジュエリー部門が107億400万ユーロ(約1兆8089億円)、時計部門が70億100万ユーロ(約1兆1831億円)を占めています。
カルティエは、1847年にルイ・フランソワ・カルティエによってフランス・パリで創業された、世界的に有名な高級宝飾品ブランドです。ジュエリーとしての卓越したデザインセンスはもとより、時計製造においても独自の美学と技術力を誇り、数々の名作を生み出してきました。シンプルながらも洗練されたデザインは、時代を超えて愛される普遍的な美しさを持っています。
カルティエの代表的な時計モデルには、以下のようなものがあります。
ヴァシュロン・コンスタンタンは、1755年創業のスイスの高級時計ブランドです。260年以上の歴史の中で培われた卓越した技術力と、伝統的なデザインを融合させたタイムピースを生み出し続けています。ちなみに公式サイトには「世界最古の時計マニュファクチュール」と謳っており、創業年だけを見れば「1735年創業とブランパンの方が古い」、と言えますが、ブランパンはクォーツショックを受けて一時休止していた時期があり、「創業から途切れることのない」長い歴史、という点ではヴァシュロンは「最古」と名乗るに相応しいブランドと言えるでしょう。
クラシックなデザインから現代的なデザインまで、幅広いデザインの時計を取り揃えており、芸術作品のような美しさも魅力の一つです。
ヴァシュロン・コンスタンタンの代表的なモデルには、以下のようなものがあります。
IWC(IWCシャフハウゼン、インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)は、1868年、ドイツ国境にも近いスイスのシャフハウゼンに創業された歴史ある高級時計ブランドです。パイロットウォッチをはじめ、多様なコレクションを展開しており、質実剛健なデザインと高い精度が特徴です。
IWCの代表的なコレクションには、以下のようなものがあります。
カルティエ、ヴァシュロン・コンスタンタンなど、歴史と伝統を誇る高級時計ブランドを多く抱えており、その伝統とクラフトマンシップは、他の追随を許しません。ブランドが独自のブランドイメージを確立し、ラグジュアリー市場において高い地位を築きあげ、競争優位性を不動のものとしています。高いブランドイメージを維持することは、顧客ロイヤルティをさらに高めています。
自社でムーブメントを開発・製造するマニュファクチュール体制を確立し、高い品質と独自の技術力を誇っています。
また、トゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーなど、高度な時計技術を駆使したモデルも多く、最高品質の製品を提供するという強いこだわりが、顧客からの支持を得ています。
歴史あるブランドでありながら、常に新しい技術やデザインに挑戦し続け、タイムレスな魅力を持つ時計を生み出しています。
リシュモンは、M&Aを積極的に行い、ラグジュアリー業界における地位を強化してきました。高級時計とジュエリー、ファッションの高級ブランドのほか、ユークス・ネッタポルテ・グループなどのオンラインリテーラー事業も所有しており、さらなる成長を遂げようとしています。
自社ブティックの拡大や、eコマースの強化を通じて、顧客との直接的な関係を構築しています。
世界各地に自社ブティックを展開し、ブランドの世界観を体験できる空間を提供しています。さらに、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたサービスを提供することで、顧客満足度を高めています。
LVMHグループは、世界最大級のラグジュアリーコングロマリットです。ルイ・ヴィトンやディオールといった誰もが知るような高級ブランドを傘下に持ち、その高いブランド力と経営手腕で世界を席巻しています。タグ・ホイヤーやブルガリといった時計ブランドも傘下に収め、ファッションと時計を融合させた新たな価値を創造しています。
LVMHグループ傘下のブランドで、腕時計をリリースしている主なブランドは以下の通りです。
LVMHは、1987年にシャンパンのモエ・エ・シャンドンとコニャックのヘネシーを扱うモエ・ヘネシー社と、世界的に有名な高級ブランドのルイ・ヴィトンが合併して誕生しました。
1989年、ベルナール・アルノーがLVMHの経営に参画し、グループの変革を加速させます。アルノーは、卓越した経営手腕とM&A戦略で、LVMHを世界最大のラグジュアリーグループへと成長させました。
アルノーは、積極的に高級ブランドを買収し、LVMHのポートフォリオを拡大していきました。タグ・ホイヤーが1999年にLVMHに加わり、1999年にウォッチ & ジュエリー部門を創設。ディオール、セリーヌ、ブルガリ、ロエベ、セリーヌ、ウブロ、ティファニーなど、数々の名門ブランドがLVMHの傘下に入りました。
LVMHは、世界各国に店舗を展開し、グローバルな顧客基盤を築きました。地域ごとの文化や消費者の嗜好に合わせた商品展開を行い、世界中の顧客に愛されています。
2023年売上高は前年度比9%増の861億5300万ユーロ(約13兆7915億円)で、ウォッチ&ジュエリー部門の売上高が109億ユーロを占めています。
スイスを代表する高級時計メーカーの一つであり、1860年の創業以来、革新的な技術とスポーツとの深い関わりで知られています。
高級ブランドというイメージもありながら、比較的手の届きやすい価格帯の時計もあり、若い世代にも人気があります。アバンギャルドなデザインと高い機能性を両立させ、スポーツウォッチからドレスウォッチまで、様々なスタイルの時計を取り揃えており、ライフスタイルに合わせて選ぶことができます。スマートウォッチにも力を入れています。
タグ・ホイヤーの代表的なコレクションには、以下のようなものがあります。
スイスの高級時計メーカー「ウブロ」は、近年、その独創的なデザインと革新的な素材の組み合わせで世界的に注目を集めています。
フュージョンというコンセプトのもと、革新的な素材やデザインの時計を生み出しています。ビッグバンシリーズは、その代表的なモデルです。
また、サッカーやモータースポーツなど、様々なスポーツとのコラボレーションモデルを多数発表しており、スポーティでアクティブなイメージを確立しています。
ウブロの代表的なコレクションには、以下のようなものがあります。
スイスの1865年の創業のスイスの老舗高級時計メーカーであるゼニスは、高い精度と革新的な技術で知られています。特に、世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」の開発は、時計業界に大きな影響を与えました。 時計製造に関わる全ての工程を自社で行うマニュファクチュールであり、高い品質管理を実現し、高精度なムーブメントを搭載したパイロットウォッチやクロノグラフなど、様々なモデルを展開しています。
ゼニスの代表的なコレクションには、以下のようなものがあります。
LVMHグループは、多様なブランドポートフォリオ、強力なブランド力、充実した販売網など、時計製造販売において数多くの強みを持っています。これらの強みを活かし、今後も時計業界を牽引していくことが期待されます。
タグ・ホイヤー、ブルガリ、ゼニスなど、それぞれが異なるターゲット層や価格帯を持つブランドを多数抱えています。これにより、幅広い顧客層にアプローチし、市場シェアを拡大することができます。
各ブランドが持つ独自の強みを活かしつつ、相互に連携することで、より魅力的な製品やサービスを提供することができます。例えば、ブルガリのハイジュエリーの技術を時計作りに活かすなど、ブランド間のシナジー効果を生み出すことで、競合他社との差別化を図っています。
ルイ・ヴィトン、ディオールなど、世界的に有名なファッションブランドを多数抱えているLVMHグループは、高いブランド認知度を誇ります。このブランド力を活かし、時計ブランドの認知度向上や販売促進を図ることができます。
ファッション業界での豊富な経験とノウハウを活かし、時計ブランドのマーケティング戦略を展開しています。最新のトレンドを捉え、ターゲット層に響くような広告やプロモーション活動を行うことで、ブランドイメージを向上させ、顧客とのエンゲージメントを高めています。
世界中に直営店や正規販売店を展開しており、顧客はいつでもどこでもLVMHグループの時計を購入することができます。 販売だけでなく、アフターサービスも充実しており、顧客満足度の向上に努めています
LVMHグループは、新しい技術開発やマーケティング活動など、時計事業への積極的な投資を行っています。 自社でムーブメントを開発・製造するマニュファクチュールを持つブランドもあれば、外部のサプライヤーと連携して高品質な部品を調達するなど、サプライチェーンを最適化することで、コスト削減や品質向上を実現しています。
時計だけでなく、ファッションアイテムやアクセサリーなども展開することで、顧客にトータルなライフスタイルを提案することができます。
ファッション業界でのトレンドをいち早く取り入れ、時計のデザインに反映させることで、新しいトレンドを創出することができます。
スウォッチ、リシュモン、LVMHの3大グループは、それぞれ異なる戦略で時計市場を席巻しています。今後も、新たなブランドの買収や、技術革新など、様々な動きが予想されます。時計愛好家にとっては、選択肢がますます広がる一方で、どのブランドを選ぶかという悩みも深まるでしょう。
腕時計は素材や機能によっても大きく価格が変わりますが、3大グループの価格帯の傾向をざっくりまとめてみましょう。
時計業界はスウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループの3大グループ以外も、ジラール・ペルゴやユリス・ナルダン擁するソーウインド グループ、フランク・ミュラーやクンツなどを擁するウォッチランド、独立系ブランドのロレックス、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲ、リシャール・ミル、エルメス、シャネル、ショパール、国内ではグランドセイコー、カシオ、シチズンなど群雄割拠の時代です。
それぞれのブランドやグループがしのぎを削るなか、3大グループは独自の戦略と強みを持ち、業界全体の動向を大きく左右しています。
スウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループの3大グループは、世界中の時計市場でシェア争いを繰り広げています。 新製品の開発、マーケティング活動、そしてブランドの買収など、様々な手段を用いて市場拡大を目指しています。 競争の激化は、消費者に多様な選択肢を提供し、消費者が自分のライフスタイルや予算に合った時計を簡単に選ぶことができる、という利点も生み出しています。
3大グループは、時計業界のトレンドを牽引する役割を担っています。新しい素材や技術の導入、デザインの革新など、常に新たな価値を創造することで、時計業界全体のレベルアップに貢献しています。
また、これらのグループの動向は、中小の時計メーカーや独立時計師にも大きな影響を与えています。
各グループは、厳しい品質管理のもとで時計を製造しており、消費者は安心して購入することができます。また、購入商品の保証期間もかつては1~2年間が標準的でしたが、2019年、カルティエやIWCなどのリシュモングループが保証期間を8年に延長するプログラムを始め、以降は長期保証を謳うブランドが続々と増えており、これは消費者にとって喜ばしい傾向です。
各グループは、自社のブランドイメージを向上させるために、様々な文化的な活動を行っています。例えば、芸術とのコラボレーション、スポーツイベントへのスポンサーシップ、そして歴史的な時計の修復などです。これらの活動は、時計文化の醸成に貢献し、時計に対する人々の興味関心を高めています。
つい先日も、LVMHはロレックスに取って代わって2025年シーズンからF1の“グローバルパートナー”として10年間の協定を締結した、と発表がありました。今後さらにルイ・ヴィトンやタグ・ホイヤーなど複数のLVMHブランドが関わりを深め、関連モデルなどもリリースされていくことが期待されます。
時計業界は、伝統と革新が常に共存する魅力的な世界です。特に、スウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループの3大グループは、業界を牽引する存在として、その動向が注目されています。今の時計業界の動向を踏まえつつ、3大グループが今後どのような動きをしていくのか予想します。
スウォッチグループは幅広い価格帯のブランドを展開しており、今後もこの戦略を継続すると考えられます。スウォッチはオメガコラボした「BIOCERAMIC MoonSwatch」や、ブランバンとコラボした「BIOCERAMIC SCUBA FIFTY FATHOMSコレクション」が幅広い年齢層に人気を博し、大ヒットを記録しました。
今後もグループ内での新たなコラボモデルが登場する可能性もあるかもしれません。
また、一部をバイオ由来素材で構成する「バイオセラミック」など、素材という面はもちろん、製品設計から調達、顧客サービスま で、製品ライフサイクル全体を通じて、あらゆる分野でサステナビリティへの投資を続けており、今後もこの取り組みは積極的に継続されるでしょう。
スマートウォッチについては、かつてスウォッチが「Swatch Bellamy」という、非接触決済が可能なNFCチップを搭載した時計をリリースしたことがありましたし、AppleのwatchOSともAndroid Wearとも異なるOSを自社開発している、というニュースが流れたのち、現在ティソは「Tタッチ」というスマートウォッチコレクションを展開しています。
現状アップルウォッチの一人勝ち状態ではありますが、スウォッチグループがこの分野を強化し、新しい顧客層の開拓を目指すのか、注目ですね。
高級時計ブランドを中心に、その地位を確立しているリシュモングループ。特にカルティエは近年業績も好調で、ロレックスに次ぐ市場シェアを誇ります。伝統的な技術とデザインを継承しつつ、新たな素材や技術を取り入れたモデルを開発していくでしょう。ただし、リシュモングループは、機械式時計の製造技術の継承と発展に力を入れており、スマートウォッチよりも機械式時計に注力したいという考えがあると考えられます。モンブランでは「 サミット」というスマートウォッチを販売していますが、さほど強くプッシュはしていない印象です。
今後、市場の動向や消費者のニーズの変化に応じて、さらなるスマートウォッチの開発に踏み切る可能性もゼロではありません(が、その可能性はかなり低いと思われます)。
リシュモングループはオンラインでの販売や、顧客とのコミュニケーション強化において、巧みにデジタルソースを活用しています。顧客の囲い込みという観点から、今後もオンラインとオフラインを上手くミックスしたサービスを展開していくでしょう。
中古市場の拡大に対して、海外ではカルティエやヴァン クリーフ&アーペル、パネライなどのブランドは認定中古時計の販売も活発です。今後も自社のブランドイメージを損なうことなく、新たな収益源を創出するための取り組みを強化していくことが予想されます。
リシュモングループのサステナビリティへの取り組みとしては、100%再生可能な電力を使用すること、自社で扱うゴールドを完全に追跡可能にすること、要な製造拠点や在庫管理施設から出る廃棄物をゼロにすること、二酸化炭素排出量の削減に向けて排出枠の購入を超える取り組みを加速的に進めることなどを目標として掲げています。
例えばIWCは、従来と比べてプラスチックの使用量を90%削減した新たな製品パッケージの導入や、パッケージの重量を30%軽量化するなどの取り組みも行っています。
パネライは、リサイクル原料を80%以上使用して作られたエコ・チタニウムを採用しています。エコ・チタニウムは、従来のチタニウムに比べて製造工程におけるエネルギー消費量や環境に及ぼす影響が大きく削減されています。
LVMHグループは、ファッションブランドとのシナジーを生かした時計の開発を強化し、若い世代の顧客の取り込みを目指しています。
タグ・ホイヤーやウブロなどはスマートウォッチ市場にも参入しており、今後も幅広い顧客層へのアプローチを図るでしょう。2024年は最高の品質に重点を置き、ブランドの魅力を継続的に高めることに重点を置いた戦略を維持すると宣言しています。
タグ・ホイヤーはスポーツ、特にモータースポーツとの結びつきを強化し、歴史的なフォーミュラ1コレクションを成功裏に再発売しました。ウブロはダニエル・アーシャムと共同でデザインした懐中時計で、アート界における先駆者としての役割を再確認しました。
一方、2024年には全ての部品が手作りであることを特徴とする高級スイスの時計メーカー、L'Epée 1839を買収し、さらなる自社時計部門の強化を目指しています。
サステナビリティへの取り組みを見てみましょう。LVMHは、製品のライフサイクル全体における環境への影響を最小化することを目標とする環境保全プログラム「LIFE 360」を2012年にスタートし、現在も継続して実施しています。環境負荷の少ない素材の開発や製造プロセスといった環境への影響の最小化、温室効果ガスの削減など気候変動への対応、生物多様性の保全、従業員の意識改革などが進められています。
修理、アップサイクルなどといった新しい循環型サービスもスタートさせており、例えばルイ・ヴィトンは年間60万個の製品を修理し、ベルルッティの革製品の79%は修理可能であり、リモワはスーツケースを生涯保証しています。中古市場への参入はまだありませんが、循環型サービスの一環として、いつかは認定中古腕時計プログラムが実現する可能性もあるかもしれませんね。
スマートウォッチの普及により、従来のアナログ時計とのすみ分けがより重要になっています。各ブランドは、それぞれの強みを活かし、スマートウォッチとの差別化を図るとともに、一部のブランドではスマートウォッチとの連携も強化しています。
環境問題への意識の高まりを受け、サステナブルな素材や製造プロセスを採用するブランドが増えています。リサイクル素材や再生可能エネルギーの活用などが挙げられます。サステナブルな取り組みは、ブランドイメージを向上させ、消費者の信頼を獲得する上で非常に有効な手段でもあります。ESG投資の拡大に伴い、サステナブルな企業は投資家から高い評価を得ることができます。
Eコマースの普及やSNSの活用など、デジタル化が加速しています。オンラインでの販売や、顧客とのコミュニケーション強化が求められています。
個性化が進む中で、ニッチな市場への参入や、限られた顧客層に特化したモデルの開発も活発になっています。
高級時計の中古市場は、近年特に活況を呈しています。顧客は、新品だけでなく、中古品にも高い関心を寄せるようになっており、各ブランドも中古市場への対応を強化しています。中古品の流通を促進することで、資源の有効活用に貢献し、サステナビリティへの取り組みをアピールできる、という側面もあります。
ロレックスが認定中古プログラムを海外でスタートさせた際は大変なニュースとなりました。まだ日本では導入されていませんが、新品定価が上昇し続けている昨今、中古時計へのニーズはより高まっていくことでしょう。
スウォッチグループ、リシュモングループLVMHグループの3大勢力について、最新情報と今後の動向などについてまとめました。
時計ブランドの売り上げシェアはロレックスが3割超えと圧倒的ですが、3大グループはそれに次ぐシェアとなっており、実にこの4つの主要なグループだけで75%以上のシェアを占めています。これらのブランドグループの動向は時計業界に大きな影響をもたらします。
スイス時計業界の最新動向と推定販売収益によるランキングをご紹介します。
いずれのグループも、ラグジュアリーブランドとしての地位を維持しながら、サステナビリティへの取り組みを積極的に進めています。これらのサステナビリティに関する取り組みは、他のラグジュアリーブランドや企業にとっても参考になる事例と言えるでしょう。
また、これらの取り組みは、単なる企業の社会的責任ではなく、長期的な成長戦略の一環として位置づけられています。サステナブルな製品やサービスの開発は、新たなイノベーションを生み出すきっかけとなることもありますから、業界の活性化という観点からも期待したいポイントです。
最近はモンブラン、タグホイヤー、ウブロ、ルイヴィトン、ブライトリング、ティソといったブランドがスマートウォッチの開発に力を注いでいますが、現状アナログ時計ユーザーを浸食している気配は感じられません。アップルウォッチの牙城をどう崩していくのか、という点には注目ですね。
コロナ禍での”モノ消費”や時計投資熱の高まりにより、バブルとでも言うべき記録的な成長を遂げた高級時計市場ですが、”コト消費”への移行や、長引くインフレ下で中古価格は下落傾向にあります。巨大グループとて安穏としていられる市況ではなく、今後も技術革新や消費者の価値観の変化に対応しながら、時計業界はますます発展していくことが期待されますね。