更新日:2026年09月10日
「ロレックスが、シークレットモデルを、公式サイトで大々的に発表し、しかも公開オークションに出す」。
このニュースを見て「え、あのロレックスが?」と二度見した人は少なくないはずです。海外メディアの間では「off-catalogue(オフカタログ)」と呼ばれる、ジェムセット(宝石装飾)のコスモグラフ デイトナ。日本の時計ファンの感覚に置き換えるなら、いわゆる“シークレットモデル”そのものです。カタログには一切載らず、正規販売店を通じて限られた上顧客だけに静かに渡っていく——存在自体は噂されていても、ブランド公式が仕様を公開することは基本的にありませんでした。
その“シークレット”を、ロレックス自身が自社サイトで詳細スペックとともに公開し、さらに競売にかけて世界中の目に晒す。これは複数の海外時計メディアが「ロレックスの沈黙が終わった」「前例のない出来事」と評するほどの、極めて異例の展開です。
2026年9月28日、ロンドン。オークションハウス フィリップスの会場で、四季をテーマにした4本の一点物コスモグラフ デイトナ「The Four Seasons」が、それぞれ独立したロットとして競売にかけられます。収益はすべて、ロジャー・フェデラーの「Federer Foundation」と、レオナルド・ディカプリオが立ち上げに関わった自然保護団体「Re:wild」に寄付されるチャリティ企画です。
この記事では、まず「なぜこれが“シークレットモデルの解禁”と言えるのか」を整理したうえで、4本それぞれのスペックを詳しく見ていきます。そして後半では、「四季」というテーマそのものについて少し寄り道し、比較対象として日本のグランドセイコーが持つ季節表現の文化にも軽く触れながら、ロレックスのアプローチの独自性を浮き彫りにしていきます。
ジェムセットのコスモグラフ デイトナは、これまでロレックスにとって“国家機密”のような存在だったと海外メディアは表現しています。こうした一点物・少数生産の宝飾モデルは、通常であれば公式サイトにもカタログにも掲載されず、購入履歴の長い一部のVIP顧客にだけ、正規販売店経由で内々に案内される仕組みです。一般の時計愛好家がその存在を知るのは、有名人の手首にたまたま映り込んだ写真や、コレクター間の噂話を通じてのみ、というのが通例でした。
今回の「Four Seasons」も、当初は2026年4月のウォッチ&ワンダーズ ジュネーブのタイミングで、限られた関係者にのみ内々にプレビューされていたと報じられ、弊社でもこちらのブログ「2026年新作シークレットモデル(オフカタログ)まとめ」でご紹介しておりました。それが一転、ロジャー・フェデラーとレオナルド・ディカプリオという2大テスティモニーの慈善活動と結びつく形で、正式な発表とオークション出品という“表舞台”に引き上げられました。
普段は存在すら公にされないシークレットモデルが、詳細な素材構成や石の数まで公式に開示され、しかも競売という最も公開性の高い形で人々の目に触れる——このギャップこそが、今回のニュースの一番の見どころだと言えるでしょう。
さらに興味深いのは、公開オークションという形に落ち着くまでの舞台裏です。報道によると、この4本のコレクションは当初、1人の購入者に約400万スイスフラン(約490万ドル)で一括販売する計画だったといいます。ところが、各地の正規販売店から「1,000人を超える超富裕層の購入希望者がいる」との声が殺到したことを受け、ロレックスは方針を転換。1人に非公開で売り渡すのではなく、フィリップスを通じて4本を別々のロットとして公開オークションにかける、という現在の形に落ち着いたと伝えられています。“世界一シークレット”だったはずのモデルが、これほど多くの人の争奪戦の対象になったという事実そのものが、今回のコレクションの注目度の高さを物語っています。
まず、今回オークションに出品される4本を見ていきましょう。ベースとなるのは現行のコスモグラフ デイトナですが、貴金属ケース、天然石ダイヤル、カラーストーンのベゼルとインデックス、そしてラグとリューズガードに配されたダイヤモンドという、通常のカタログモデルとは一線を画す豪奢な仕様がすべてに共通しています。搭載されるムーブメントも4本共通でキャリバー4131、パワーリザーブ約72時間、高精度クロノメーター(Superlative Chronometer)認定です。
| モデル名 | コスモグラフ デイトナ "Spring" |
|---|---|
| 型番(Ref.) | 126599SAVL(※業界内で報告されている参考型番。ロレックスは正式な型番を公表していません) |
| ケース素材 | 18 ct ホワイトゴールド |
| ケースサイズ | 40mm(4本共通) |
| ムーブメント | Cal.4131 |
| 駆動方式 | 自動巻き |
| パワーリザーブ | 約72時間 |
| 防水性 | 非公表 |
| 販売形態 | 非売品/2026年9月28日、フィリップス チャリティオークションに出品(ロンドン) |
淡いグリーンの天然石クリソプレーズに、パープルサファイアを合わせた配色は、まさに芽吹きの季節にふさわしい清涼感。派手さよりも、春先特有の“ういういしさ”を意識した色設計に見えます。
| モデル名 | コスモグラフ デイトナ "Summer" |
|---|---|
| 型番(Ref.) | 126595SARO(※業界内で報告されている参考型番。ロレックスは正式な型番を公表していません) |
| ケース素材 | 18 ct エバーローズゴールド |
| ケースサイズ | 40mm(4本共通) |
| ムーブメント | Cal.4131 |
| 駆動方式 | 自動巻き |
| パワーリザーブ | 約72時間 |
| 防水性 | 非公表 |
| 販売形態 | 非売品/2026年9月28日、フィリップス チャリティオークションに出品(ロンドン) |
4本の中でもっともビビッドな配色。ターコイズブルーとピンクサファイアのコントラストは、夏の陽射しとバカンス気分をそのまま貴石に閉じ込めたような仕上がりです。
| モデル名 | コスモグラフ デイトナ "Autumn" |
|---|---|
| 型番(Ref.) | 126598TML(※業界内で報告されている参考型番。ロレックスは正式な型番を公表していません) |
| ケース素材 | 18 ct イエローゴールド |
| ケースサイズ | 40mm(4本共通) |
| ムーブメント | Cal.4131 |
| 駆動方式 | 自動巻き |
| パワーリザーブ | 約72時間 |
| 防水性 | 非公表 |
| 販売形態 | 非売品/2026年9月28日、フィリップス チャリティオークションに出品(ロンドン) |
4本の中で唯一、鉱物由来の“土色”を基調にした一本。ムーカイトの赤茶色い斑紋とイエローゴールドの組み合わせは、紅葉というよりも収穫期の大地そのものを思わせる、アースカラーの深みが特徴です。
| モデル名 | コスモグラフ デイトナ "Winter" |
|---|---|
| 型番(Ref.) | 126596SABV(※業界内で報告されている参考型番。ロレックスは正式な型番を公表していません) |
| ケース素材 | 950 プラチナ |
| ケースサイズ | 40mm(4本共通) |
| ムーブメント | Cal.4131 |
| 駆動方式 | 自動巻き |
| パワーリザーブ | 約72時間 |
| 防水性 | 非公表 |
| 販売形態 | 非売品/2026年9月28日、フィリップス チャリティオークションに出品(ロンドン) |
見る角度で表情を変えるブルーオパールに、青からピンクへとグラデーションするベゼル。ロレックスが唯一プラチナを採用したこの一本は、海外の時計メディアの間でも「4本の中のセンターピース」と評されており、実質的な“主役”として位置づけられているようです。
| Spring | Summer | Autumn | Winter | |
|---|---|---|---|---|
| ケース素材 | 18ct ホワイトゴールド | 18ct エバーローズゴールド | 18ct イエローゴールド | 950 プラチナ |
| ダイヤル | クリソプレーズ | ターコイズ | ムーカイト | ブルーオパール |
| カウンター素材 | レピドライト | ハート・オブ・ルビー | クリソプレーズ | ラピスラズリ |
| ベゼルの石 | パープルサファイア(約5.57ct) | ピンクサファイア(約4.32ct) | グリーントルマリン(約4.32ct) | サファイア・グラデーション(約5.57ct) |
| ムーブメント | Cal.4131/約72時間 | 同左 | 同左 | 同左 |
| ダイヤモンド54個(約0.86ct) | 同左 | 同左 | 同左 | 同左 |
こうして並べると分かるのは、ロレックスが「四季」を貴金属の色そのものと天然石・カラーストーンの色という、極めて直接的な手段で表現していることです。ホワイトゴールド=春の白さ、エバーローズ=夏の情熱、イエローゴールド=秋の実り、プラチナ=冬の氷結。ケースの金属からして季節ごとに変えてしまう、という発想そのものが、ロレックスの大胆さを物語っています。
ここまでロレックスの「Four Seasons」を見てきましたが、少しだけ寄り道をさせてください。「四季をテーマにした時計」と聞くと、時計好きの間では実はグランドセイコーの名前が真っ先に挙がることも多く、この対比を通してロレックスのアプローチの独自性がより際立って見えてきます。
グランドセイコーには、二十四節気(春分、立夏、大雪など、1年を24等分した日本古来の季節区分)にちなんだモデル群を中心に、自然や四季をモチーフにした文字盤が非常に豊富にラインナップされています。有名どころだけでも、雪原の輝きを表現した「雪白(ゆきしろ)」(SBGA211など)、白樺の美林から着想を得た「白樺(しらかば)」(SLGH005など)、諏訪湖の神事に由来する「御神渡り(おみわたり)」(SBGY007)、水面の煌めきを表した「潮(うしお)」(SLGB023)など、枚挙にいとまがありません。今回比較の一例として挙げた「ジャパン シーズンズ スペシャル・エディション」(SBGA413/SBGA443、SBGH271、SBGH273、SBGA415)も、そうした季節表現の系譜に連なる一つの例に過ぎず、二十四節気シリーズだけでも既に10本以上が展開されています。
面白いのは、これらのモデルにおける「季節」が、西洋的な四季の区切りよりもずっと繊細だということです。いくつか具体例を見てみましょう。
グランドセイコー ヘリテージコレクション 春分 SBGA443
グランドセイコー エレガンスコレクション 杪夏 SBGW285
グランドセイコー エレガンスコレクション 秋の穂高連峰 SBGA499
グランドセイコー 雪白 SBGX359&SBGX361
こうして具体例を並べてみると分かるように、グランドセイコーの「季節」は、単純な春夏秋冬というより、二十四節気というさらに細かい暦のグラデーションに基づいています。しかも表現手段は色石ではなく、あくまで金属文字盤に施す型打ちという技術です。0.04mm単位という精密さで凹凸パターンを刻み、その上に多層のクリア塗装を重ねることで、見る角度や光の当たり方によって表情が変化する――スイスの高級時計に見られるギヨーシェ彫りやエナメル装飾とはまったく異なる、グランドセイコー独自のアプローチです。
ここまで見てきたロレックスとグランドセイコーの「四季の時計」の特徴を、あらためて並べてみましょう。
| 観点 | ロレックス Four Seasons Daytona | グランドセイコーの季節モデル群 |
|---|---|---|
| 季節の表現手段 | 貴石・天然石そのものの色と質感(クリソプレーズ、ターコイズ、ムーカイト、ブルーオパールなど) | 文字盤の型打ちパターンと配色(雪面、桜、月夜、山岳風景などのモチーフ) |
| ケース素材の使い方 | 季節ごとに貴金属を変える(WG/エバーローズ/YG/プラチナ)=素材自体が季節のサイン | 基本的なケースデザインは共通、素材差もチタンとステンレスなど限定的=季節表現は文字盤の中でほぼ完結 |
| 季節の粒度 | 西洋的な四季(春夏秋冬の4区分)を、色のムードとして印象派的に表現 | 二十四節気という、より細かな季節の“節目”に見られる自然現象(花筏、桜隠し、杪夏、雪渓、秋の穂高連峰、シュカブラなど)を一つひとつモデル化 |
| 見せる技術 | ジェムセッティング(配石・研磨)というハイジュエリーの技 | 型打ち成形と多層クリア塗装というメタルクラフトマンシップの技 |
| 個体の位置づけ | 世界に1本ずつの一点物、チャリティオークションでこの世から“消える”前提 | 数量限定または通常ラインとして、複数の顧客が所有できるコレクション |
| 企画の目的 | ブランドの宝飾技術の頂点を示す社会貢献イベント | 手の届く価格帯(とはいえ高級時計)としての、継続的な商品ライン |
同じ「四季」というテーマを掲げながら、ロレックスは石や金属という物質そのものの色で季節を語り、グランドセイコーは金属の上に刻む繊細な色と質感で季節を語る。前者は一瞬の煌びやかさと社会貢献という物語を、後者は日本人が古来大切にしてきた季節への感受性を、それぞれの得意技術で腕時計に落とし込んでいるといえるでしょう。
ロレックスが今回見せた「Four Seasons」は、これまで“国家機密”のように扱われてきたジェムセットデイトナの存在を、ブランド自らが公式サイトで詳細スペックとともに認め、フェデラーとディカプリオという著名な2人の慈善活動と結びつけて世界に公開したという、前例のない出来事です。海外メディアも「これは偶然生まれたヴィンテージの一点物でも、上顧客だけに回される非公開のバリエーションでもない」と、その特異性を指摘しています。
過去には、ポール・ニューマン所有の「Ref.6239」がフィリップスの競売で約1,780万ドル(約20億円)を記録するなど、デイトナは幾度もオークション市場に歴史的な瞬間を刻んできました。今回の「Four Seasons」も、単なるチャリティイベントという枠を超えて、ロレックスの宝飾技術の到達点を示す1本1本が、いくらで、誰の手に渡るのか——2026年9月28日のロンドンでのハンマープライスは、今後何年も語り継がれる新たな伝説になるかもしれません。
普段は決して表舞台に出ないシークレットモデルが、これほど大々的に、しかも競売という最も公開性の高い形で世に問われる。その瞬間を同時代に見届けられるというだけでも、時計好きにとっては十分に胸が高鳴る出来事ではないでしょうか。当日の結果にも、ぜひ注目してみてください。
なお、Four Seasons Daytonaのオークションは2026年9月28日、フィリップスによりロンドンで開催予定です。詳細はロレックス公式サイトの特設ページでも確認できます。
※上記はいずれも記事執筆時点(2026年9月)で確認した情報を基にしています。オークション結果や今後の展開により、内容が更新される可能性があります。
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