更新日:2026年09月03日
2026年8月25日、東京・中野区の商業施設「中野ブロードウェイ」内にある高級時計店「タイムウォーカー」で、正午前という白昼に大胆な窃盗事件が発生しました。犯行にかかった時間はわずか10秒ほどにもかかわらず、被害額は約2億円相当。盗まれたのは「リシャール・ミル」3本と「パテック・フィリップ」1本という、時計好きなら誰もが知る名門ブランドの逸品でした。
本記事では、事件の舞台となった中野ブロードウェイの紹介から、事件の経緯、逮捕の顛末、そして盗まれた時計ブランドの簡単な解説までをコンパクトにまとめます。
事件の現場となった中野ブロードウェイは、JR中野駅北口から中野サンモール商店街を抜けた先にある、地上10階・地下3階の複合ビルです。1966年(昭和41年)に商業住宅複合施設として開業し、当時は「東洋一のビルディング」とも呼ばれた先進的な建物でした。上層階は現在も居住フロアとなっており、屋上には入居者専用のプールや庭園まで備えるという、ユニークな構造をしています。
開業当初は食品店や服飾店、宝飾品店などが中心の一般的な商業施設でしたが、1980年に古書店「まんだらけ」が2坪ほどのスペースで営業を始めたことをきっかけに、フィギュアやアニメグッズ、コスプレ用品、中古カメラ、レコードなど、あらゆるジャンルのマニアックな専門店が集積するようになりました。バブル崩壊後の1990年代以降、こうした個性的な店舗群が「サブカルチャーの聖地」として国内外のファンから注目を集め、現在では地下1階から地上4階までの5フロアに200~300軒ともいわれる店舗がひしめく、独特のカオスな空間として知られています。今回被害に遭った高級時計店も、そんな中野ブロードウェイの1階に店を構えていました。
事件が発生したのは2026年8月25日午前11時50分ごろ。施設の警備会社から「不審な男がショーケースを割ってものを盗んで逃げた」という110番通報が入り、事件が発覚しました。
防犯カメラなどの記録によると、黒い服装の男2人が時計店に入店し、入り口付近にあったショーケースをハンマーのようなもので破壊。中に陳列されていた高級腕時計4本を鷲づかみにして奪い去りました。この一連の犯行にかかった時間は、わずか10秒ほどだったと見られています。幸い、店内にいた従業員5人にケガはありませんでした。
被害額は合計で約2億300万円にのぼるとされ、盗まれたのは「リシャール・ミル」3本と「パテック・フィリップ」1本。いずれも1本あたり数千万円クラスの取引価格を持つ、世界最高峰の高級腕時計です。
犯行後、男らは現場付近で電動キックボードや衣類、帽子などを脱ぎ捨てて着替え、変装したとみられています。捜査関係者によると、逃走に使われた電動キックボードは、事件発生のおよそ15分前に中野駅周辺で借りられていたことが判明しました。計画的な犯行だった可能性が高いとみて、警視庁捜査第三課と中野署が捜査を進めました。
その後の調べで、少なくとも1人はJR中野駅からその日のうちに新幹線で大阪方面へ移動していたことも明らかになっています。
事件発生から3日後の8月28日までに、警視庁はチリ国籍の男2人を窃盗容疑で逮捕したと発表しました。
捜査関係者の説明によれば、2人は事件のわずか4日前にあたる8月21日、オーストラリア・シドニーからの便で羽田空港に入国したばかりでした。在留資格は90日間の短期滞在。入国から2日後には現場の時計店を下見していたとみられ、その2日後に犯行に及んだという、極めて手早い犯行計画だったことがうかがえます。
一人の容疑者は容疑を認め、「23日に店を訪れた際、目を奪われた。チリではセキュリティが厳しいが、中野の店は薄いガラスの中にあって、出入り口から近く、簡単に盗めるのではないかと思った」「時計を売却して得た金を母国に持ち帰るつもりだった」と話す一方、盗んだ3本については逃走中に落としてしまったと説明しているといいます。対するもう一人の容疑者は、自分が盗んだのは1本だけだと一部否認しており、警視庁が詳しい経緯を調べています。来日から犯行までのスピード感や店舗の警備状況を把握していたとみられる点から、事前に何らかの情報を得ていたのではないかという見方も出ています。
2人は8月29日に検察へ送検されました。なお、一部ネット上では今後不起訴になるのではないかと懸念する声も見られますが、その根拠となる具体的な情報は確認できておらず、現時点ではあくまで憶測の域を出ません。
今回の事件で改めて注目を集めたのが、盗まれた時計のブランドそのものの価値の高さです。時計にあまり詳しくない方のために、簡単にご紹介します。なおこのニュースに関連して、弊社では某報道機関からの要請により、ブランドに関する情報提供協力を行いました。
1999年にフランス人実業家リシャール・ミル氏が設立した、比較的若いながらも高級時計の頂点に君臨するブランドです。航空機やF1マシンにも使われる特殊素材をケースに用い、機械式時計でありながら軽量かつ高い耐衝撃性を実現していることが最大の特徴です。骨組みがそのまま見えるスケルトン構造のムーブメントは、まるで精密機械の芸術品のような佇まいで、テニス選手のラファエル・ナダル氏など著名なスポーツ選手とのコラボレーションでも知られています。市場価格は1本数千万円から億単位に達するモデルも珍しくなく、「時計界のスーパーカー」とも称される存在です。
年間の販売本数が数千本程度と少ないながら、その単価の高さと超富裕層からの熱い需要に支えられ、スイス高級腕時計の年間売上ランキング上位に食い込んでくる”バケモノ級”ブランドでもあります。
1839年にスイス・ジュネーブで創業した、現存する独立系高級時計メーカーの中でも最古参にあたる名門ブランドです。「You never actually own a Patek Philippe. You merely look after it for the next generation.(あなたは時計を所有しているのではない。次の世代のために、それを一時的に預かっているだけだ)」という有名なスローガンに象徴されるように、親から子へと世代を超えて受け継がれる資産としての時計づくりを掲げています。複雑機構の開発力と伝統的な仕上げ技術に定評があり、オークションでは数億円から数十億円という記録的な落札価格がつくこともあるなど、資産価値の高さでも知られる存在です。
代表作としては、1932年発表の「カラトラバ」が挙げられます。丸型ケースにシンプルな文字盤を組み合わせたドレスウォッチの原点ともいえるモデルで、パテック・フィリップの上品なデザイン哲学を体現する存在として、今なお生産が続けられています。また、1976年に登場した「ノーチラス」は、船窓(ポートホール)をモチーフにした八角形のベゼルとステンレススチールケースが特徴の高級スポーツウォッチで、発表当初から「入手困難な一本」として知られ、現在では中古市場でも定価を大きく上回るプレミア価格で取引されることで有名です。
最近では山田涼介さんや菊池風磨さんなど有名人が愛用していることでも幅広い世代へ認知度が高まってきています。
なお、SNS上ではラファエル・ナダルモデル RM35-03やヨバン・ブレイクモデルRM61-01、フェリッペ・マッサモデルRM011、ノーチラス トラベルタイム 5990/1R-001、といった具体的なモデル名を挙げる投稿も一部で拡散していますが、真偽は不明であり、警視庁などから公式に発表された情報ではありません。
今回の事件は、白昼の商業施設で、わずか10秒という短時間のうちに2億円相当の高級腕時計が奪われるという、非常に大胆かつ計画的な犯行でした。犯人とみられる2人が来日からわずか4日というスピードで犯行に至った経緯や、店舗の警備情報を事前に把握していたのではないかという疑問点も含め、今後の捜査の進展が注目されます。
サブカルチャーの聖地として親しまれてきた中野ブロードウェイですが、館内には今回のような高級時計店をはじめ、貴金属や宝飾品を扱う店舗も少なくありません。今回の事件を機に、商業施設全体の防犯体制の見直しが進むかどうかにも注目が集まりそうです。
※本記事は2026年9月3日時点の報道をもとに作成しています。捜査の進展により、事実関係が変わる可能性があります。
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