更新日:2025年05月10日
「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(Watches&Wonders、略称W&W) 2025」にて、今年も衆目を驚かせたグランドセイコー(GRAND SEIKO)。スプリングドライブ U.F.A.搭載の“樹氷”SLGB001/SLGB003、今までのシリーズと毛並みが違う“Tokyo Lion”SLGC009など、実用性への配慮も欠かさないクリエイティブな新作を続々発表。“桐”SBGW323では、「44GS現代デザイン×岩手山パターン」に薄紫ダイヤルを組み合わせ、楚々とした上品さを完成させています。
グランドセイコー SBGJ285/横36.5mm×縦42.7mm× 厚さ11.6mm、ステンレス製ケース、メカニカル 手巻き キャリバー9S64搭載。希望小売価格:770,000円(税込)、2025年5月発売予定
淡いパープルの柔らかい物腰、44GSケースの凛とした顔立ちが麗しげですね。“桜隠し”SBGW289の薄ピンクもそうでしたが、岩手山パターンはライトカラーがよく似合います。桐の花さながら、けばけばしくない色味で、佇まいから静かな気品が漂っていますよね。
藤の花が咲き誇る初夏の5月頃、遥か頭上10数メートルの大木に甘い香りを放ち、桐の花も人知れず見頃を迎えています。古代中国では鳳凰が止まる唯一の木と云われ、神聖視されてきた「桐」。高潔な魂をダイヤルに宿したSBGW323の訴求点、古典的な趣について目を向けてみましょう。
湿気を通さず、高級木材として重宝された「桐」。嫁入り道具の定番アイテムである桐箪笥、下駄や箏(こと)、家紋や着物の柄、500円玉のモチーフなどにも使用されています。
日本の生産地では、岡山県の備後桐、福島県の会津桐、岩手県の南部桐が有名で、5~6月の開花シーズンには独特な甘い香りで観光客の目と鼻を楽しませます。
SBGW323の美妙さも選りすぐってみました。
≪SBGW323のセールスポイント≫
ある種の王道パターンでもある44GS現代デザイン×岩手山パターンを、薄紫色(※南部の紫桐(しとう)がモチーフ)で端正に仕上げていますね。岩手県産の桐は、材木にした時の光沢が強く、淡い紫を帯びた木目が美しいと評判です。本作SBGW323は、44GSケースのフォルムの良さ(材)を岩手山パターンの繊細な放射模様(木目)で、気品に富んだ“桐”ダイヤルを完成させています。小ぶりな36.5mmが、フェミニンな色っぽさを醸し出していますね。
36.5mm×44GSケース、と言えばグレイッシュな桜色の“桜隠し”SBGW289を連想するGSファンも多いかもしれませんね。同モデルはGSミドルサイズウォッチを語る上で外せない存在で、現在までに多数の36.5mmモデルが生み出されるようになりました。
時系列順に幾つかのモデルを紹介すると、2022年発売のSBGW289を皮切りに、シルバーSBGW291&ブラウンSBGW293が同年レギュラーに追加。翌年2023年には、手巻きモデルのSBGW297&SBGW299、US(北米)限定の“樹氷”SBGW309&“梅雨”SBGW311&“花見”SBG313、欧州限定“岩手山 秋の夕暮れ”SBG313を発表するなど、色とりどりな「36.5mmサイズの44GS」をリリースしています。一部例外はあるものの、模様はほぼ岩手山パターンが独占しているのは面白い傾向ですね。ライトカラー系には44GS現代デザイン、岩手山パターン、36.5mmなどがよく似合うということなのでしょうね。そろそろ、アッと驚く法則崩れも見たいような。
1967年に発表された「44GS」55周年を記念した特別な数量限定モデルが登場!グレイッシュな桜色のダイヤルが美しい新作 SBGW289を詳しくご紹介します!
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欧州限定400本の「 “Mountiwate Autumn Dusk(※岩手山 秋の夕暮れ)” SBGW303」をご紹介します。
・・・とはいえ、それでも本作SBGW323の高尚さは失われません。気を取り直してダイヤルを見ていきましょう。
『岩手県花として認定されている「桐」は、足利時代に後に盛岡藩主となる南部家が大和から苗を移したのが始まりとされ、春を飾る淡い紫色の花を咲かせることから「南部の紫桐」の名で愛されています。このモデルは、機械式グランドセイコーの製造地「グランドセイコースタジオ 雫石」から望む岩手山の山肌を繊細な型打ちにて再現した「岩手山パターン」に、「南部の紫桐」から発想した淡く美しい紫色を彩りました。』
岩手県のシンボルである、桐&岩手山をスタンダードな手法で仕立てています。動の赤、静の青を掛け合わせた紫色をソフトトーンでコーデすることで、優雅さを際立たせていますね。ペールトーンより少し明るい色調で、気品を感じさせるのもポイントです。
味付けを間違うと、エキゾチック、妖艶さが強調されてしまう紫色を嫌味がないデザインへと昇華しているのは流石です。差し色、デイト表示なし、のシンプルなディテールが功を奏しているのでしょうね。
いつもながら、本作もテーマ選びと表現方法が秀逸です。桐にまつわる歴史・雑学も踏まえつつ、文字盤の妙味を解説していきます。
桐の歴史は古く、『万葉集』の題詞に梧桐で作った日本琴を贈る記述が登場します。日本古典文学とも所縁があり、『源氏物語』の第一帖のタイトルは「桐壺(光源氏誕生)」でした。光源氏の母が淑景舎(※庭に桐の木が植えられていた)の更衣で、桐壺と呼ばれたのが由来です。『枕草子』では、清少納言が「桐の木の花、紫に咲きたるは、なほをかしきに(略)」と、桐の花の風情、桐の木で作る琴の音を絶賛していました。
平安時代頃からは、桐の紋様が菊紋に次ぐ格式ある紋として浸透し始め、権威と格式の象徴として、時の権力者達は桐紋を好んで用い、格式の高さを示したそうです。室町~戦国時代には、足利尊氏の五七桐紋、織田信長の五三桐紋、豊臣秀吉の太閤桐紋など、“天下人の紋章”として定着していきます。現代でも、日本政府の紋章に五七桐紋、法務省の五三桐紋、が使用されていますし、政(まつりごと)にまつわる由緒正しい家紋として日本の歴史に息づいているのも特徴です。ビザやパスポート、500円硬貨など、実際の桐の木や花よりも日々見かけますよね。
岩手に伝わる不思議な伝説「遠野物語」や「マヨヒガ(迷い家)」にも、桐はキーアイテムとして登場します。柳田國男が記した遠野物語の33話では、「遠く望めば桐の花の咲き満ちたる山あり」と記載されており、紫の雲がたなびくようで周囲に近づけない、と摩訶不思議な出来事を書き留めています。
岩手県土淵村(現・遠野市)出身の佐々木喜善は、著作『山奥の長者屋敷』で、「矢張り桐の花と関係ある隠れ里(土地ではマヨヒガ)の話をしませう」と記述しており、容易にはたどり着けない“幻の家”マヨヒガの庭に、桐の花が咲いたり散ったりしていた、と綴ってあります。現代で云うところの異界体験談ですが、無欲で富を授かる人(※遠野物語63話)もいれば、欲をかいて何も得られなかったエピソード(※遠野物語64話)もあり、含蓄のあるメッセージが込められています。
鳳凰の止まる木だったり、豪邸の道標となったり、総評すると神聖でミステリアスな世界観を宿していますね。まだまだ面白い雑学はありますが、欲をかき過ぎずダイヤルの魅力へと向かいましょう。
やんごとなき雰囲気を漂わせる“桐”SBGW323。ライトパープルカラーの色合いが、岩手山パターンの絶妙な稜線模様と見事にマッチしていますね。一歩間違うと、浮世離れした美しさになりがちな紫色をふんわりした風合いで柔らかく仕上げています。主張し過ぎない、清潔感のある色彩です。
36.5mmのサイズと言い、ユニセックス戦略を狙い撃ちしたようなデザインですよね。薄紫ダイヤルのレパートリーも増え始めていますし、他の作品と見比べて本作SBGW323の隠れた良さを見い出していきましょう。
キラズリ風ダイヤル×藤紫色で、藤の花の高貴な佇まいを再現した“藤(Fuji)”SBGJ285。そよ風にたなびく藤の花の光景を模しているため、“桐”SBGW323とはひと味違う紫文字盤を完成させていました。
どちらも「薄紫ダイヤル×44GS 現代デザイン」を採用しているのですが、テクスチャーやGMT針の影響で、SBGJ285の方が妖艶さが強調されていますよね。一方、SBGW323は差し色・デイト表示なし、でシンプルなデザインが、恬淡寡欲なサッパリした計らいが無欲さや「粋」を感じさせます。
薄紫色×岩手山パターンで、「江戸の粋」を表現した和光限定SBGM249。こちらのモデルも、岩手県の県花である桐の花をダイヤルカラーにチョイスしており、何かと共通点が多いですね。GMT針にパキッとした江戸紫色を採用しており、江戸一番の伊達男「助六」のように大人の色気がムンムンです。
ライトパープルダイヤルとブラウンレザーベルトのコントラストも絶妙で、SBGW323にも同色の替えバンドがマッチしそうです。ベルトが大樹の幹のように見え、紫×茶は相性が良いのかも?
夜桜の艶やかな煌めきを仄暗い紫色で手掛けた香港・マカオ限定“夜桜”SBGJ287。青空の下に咲く昼間の桜がオーソドックスな魅力なのに対し、夜の桜は闇夜に佇む幻想的な光景が見事です。SBGJ287も濃淡の表情をくっきりと際立たせ、紫のシルエットをしっとりと浮かび上がらせています。当モデルは香港・マカオ限定というのもあり、ネオンサインの妖艶さも濃紫色ダイヤルのイメージにマッチしていますよね。こちらの紫文字盤は、本作とは逆にGSロゴやGMT針をゴールドカラーに差し替えており、オリエンタルなラグジュアリーさに心惹かれますね。
ウォッチ・オブ・スイスグループ限定SBGH337は、宮古湾の夜空にインスピレーションを得たアンニュイな紫色が蒐集欲を刺激。本作SBGW323もそうですが、秒針やロゴをシルバーカラーで揃えているせいか、不思議と見ていて落ち着く上品な色合いを完成させています。
2025年の新作で紫色、でやはり避けては通れないライバルは、ロレックス オイスターパーペチュアルの新色“ラベンダー”。サンドベージュ、ピスタチオグリーンなど、柔らかいパステルカラーがなんともモダンで、ロレックス初心者~若い世代に人気を博しそうです。
こういった柔和なカラーは、腕時計業界にも流行の兆しを見せ始めていますし、WWG2025新作の紫文字盤がどれだけヒットするのか、今後が楽しみです。
SBGW323のサイズは横 36.5mm×縦 42.7mm× 厚さ 11.6m、ステンレス製で、基本デザイン、サイズ、素材は限定モデルの“桜隠し”SBGW289、レギュラーのSBGW299などと同じです。
SBGW系の現行モデルは計16件。一足早く値段の感想も申し上げますと、手巻きメカニカルSS製で77万円はちょっと高く感じますね。総合的評価はのちほどお伝えします。
⇒「SBGW323の値段」へ
(左)“樹氷”SBGW309(中)“花見”SBG313(右)“梅雨”SBGW311、一番左のSBGW309はGS9 Club限定で資産価値も高め
本作SBGW323は少し珍しい紫文字盤が醍醐味ですが、デザイン・サイズ・素材はかなりありふれた組み合わせで、人気に火がつくかどうか、吉凶を判じ難いところです。好意的に捉えればオーソドックス、否定的に言えば凡庸さを残します。
似たスペックのレパートリーは目移りするほど多く、“桜隠し”SBGW289を筆頭に、US限定“樹氷”SBGW309“梅雨”SBGW311“花見”SBG313、欧州限定“岩手山 秋の夕暮れ”SBGW303、“上坊牧野の一本桜”SBGW317、など色とりどりの類似モデルが発売されています。いずれも「SS製36.5mmサイズの44GSケース」なのもミソですね、そろそろハズシやクズシを活用したスマートな抜け感が欲しい気もします。
下記にスペックの近いモデルを一挙まとめて、どどんとご紹介しますので、どのカラーリングが44GS現代デザインにマッチしているのか、ご自身でチェックしてみてください。
SBGW323のムーブメントは定石通りのキャリバー9S64を搭載、裏ぶたはソリッドバック仕様ですし、クラシカルな装いが“桐”SBGW323の魅力に花を添えています。梢高く咲き誇る桐がテーマですし、想像する楽しみを残すソリッドバックも一興ですね。
SBGW323は770,000円(税込)。「手巻き+SS」でその価格はやや高く感じますが、多角的に分析していきましょう。今回は予算【70万~80万】で検索条件を絞ってみました。
結果は20件、同価格帯でメカニカル9S66(SBGM)、スプリングドライブ 9R65(SBGA)、スプドラGMT 9R66(SBGE)系も購入可能です。70万円を切っていたらまた思うことも違うのですが、ちょっとお得感には欠けるかも。
【メカニカル】の価格が安い順で見ていくと、最安値はSBGR315の638,000円、ボリュームゾーンは70万~90万円前後ですので、一概に高いとは言えzy、GS現行コレクション全体では比較的安価な部類に入ります。SBGW系は現行機械式時計の中では最も求めやすい価格帯の一つ、という一部評価もありますし、高すぎるということはなさそうです。
ちなみに、本作の海外の値段は5,600ドル、6,600ユーロで、海外の定価情報を鑑みると、シンプルな手巻きメカニカルと考えると高い、がGS現行ウォッチの中では割と安い、という結論が妥当でしょうか。モノは考えようですが、少しやりきれない気もしますね。
姉妹サイト「ブランド時計販売のクエリ」では、同予算で多種多様な珍しいGS限定モデルを1点限り、狙い目価格で提供しております。本作が少し高いな、とお考えの方は、中古市場に目を向けてみてくださいね。
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最後に少しだけ、水を差すようですが、SBGW系の岩手山パターンシリーズはリセールバリューの面であまり跳ねていないのが現状です。
2025年新作ブティック限定SBGW317、US GS9 Club限定の“樹氷”SBGW309くらいしかプレミアがついておらず、資産価値に引っ張られ、消費マインドの冷え込みを招く恐れも考えられます。岩手山パターン+SBGW系は現状、飛び抜けた人気モデルがあまりない状況ですが、本作の紫文字盤というニッチさがシリーズの火付け役となっていくといいですね。
“桐”SBGW323の比較対象は、紫の花繋がりで“藤”SBGJ285をノミネートしました。36.5mm&44GSケースの草分けとなった“桜隠し”SBGW289と悩みましたが、テーマ性・色味を重視して「桐VS藤」の対決にこだわりました。
≪“桐”SBGW323と“藤”SBGJ285の違い≫
風変わりな紫文字盤ですが、見ていて和む、癖のないデザインが風流ですね。どちらも紫×シルバーを基調としており、SBGJ285は差し色を濃い紫色に絞った点、SBGW323はすっぴんに等しいくらいダイヤルの情報量を減らしたのが功を奏している印象です。アクティブにワールドワイドで活躍をしたい方にはSBGJ285、さり気ない気品を演出したい人にはSBGW323が似合いそうです。
色使いはさておき、デザイン自体は普段使いに向いているので、アクセサリーウォッチ感覚でファッションに取り入れると、自身の内に秘めた魅力を輝かせるのに重宝しそうです。
色合い的にもストレスの緩和、ヒーリング効果も期待できますし、持ち歩けるリラックスグッズ、という捉え方もありですね。忙しい日常に、ちょっとした安らぎのひと時を過ごせそうです。
参考意見として、ちょっと珍しいイタリア語の動画に寄せられたコメントを選別してみました。
「ロレックスに欠けている要素が全てある」
「スイス時計業界は、イノベーション(品質と価格のバランス)の改善が必要だ」
イタリアの伊達男達には、多分に漏れず本作も好評のようです。値段に関してはシビアな意見も見かけましたが、概ね良好で海外ウケも良さそうです。
極上の紫ダイヤルを完成させ、ふんわりとした香りも手首から発せられそうな“桐”SBGW323。ギラギラし過ぎない、さり気ないフェミニンさは、腕時計界のトレンドにも影響を及ぼしうる出来栄えでした。
『琴となり下駄となるのも桐の運』の俳句ではないですが、琴のように華やかな人気を博す未来もあれば、下駄となってコレクション全体を支えるビジョンもあり得ます。どちらになったとしても、“桐”SBGW323は変わらない高潔な装いで、持ち主に“手の届く美しさ”を湛えるのは間違いありませんね。
モデル | ヘリテージコレクション 手巻メカニカル 「桐」
Heritage Collection 44GS Mid-Sized Mechanical Manual-Winding Kiri |
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型番(Ref.) | SBGW323 |
ケースサイズ | 横 36.5mm 縦 42.7mm 厚さ 11.6mm |
ケース素材 | ステンレススチール |
ムーブメント | メカニカル 手巻 キャリバー9S64 |
精度 | 静的精度:平均日差+5秒~-3秒 携帯精度:日差+10~-1秒 |
駆動期間 | 約72時間(約3日間) |
防水性 | 日常生活用強化防水(10気圧) |
耐磁性 | あり |
重量 | 132 g |
取扱店舗 | グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロンおよびグランドセイコーマスターショップ |
発売日 | 2025年5月10日発売予定 |
価格 | 770,000 円(税込) |
※販売開始時期・価格は予告なく変更される場合があります。
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