更新日:2025年01月31日
約1400年の歴史を持ち、書道や浮世絵、提灯や障子など幅広い用途で活用されてきた「和紙」。現在でも、現代美術やレストランの内装材、シューズや宇宙服にまでも応用 されている、日本文化を象徴する伝統素材の一つです。
2025年1月1日、グランドセイコー(GRAND SEIKO)から、古き良きモノと知られる和紙に着想を得たSBGJ283がアジア太平洋地域向けに 150個限定で発売されました。
グランドセイコー SBGJ283/横38.6mm× 縦45.0mm×厚さ10.0mm、ブリリアントハードチタン製ケース、メカニカル 自動巻(手巻つき) キャリバー 9S86搭載。希望小売価格:11,000シンガポールドル、150個限定
鏡餅の敷紙、書き初めの半紙、お年玉のぽち袋、など意外と現代でも見かける和紙を、超スタンダードな白文字盤に。取り立てて、特別目新しい要素はないようにも見えますが、なかなか“ありそうでなかった”白×赤の紅白GMTウォッチを完成させています。
グランドセイコーを代表する看板デザイン“雪白”では、“和紙のような”テクスチャーで、独特な風紋模様を生み出し、繊細な雪の質感を再現していましたが、本作SBGJ283では『和紙の質感を表現』と公式で明言。“雪白”とは趣の異なる、光沢のあるオフホワイトダイヤルを生み出しています。
2025年元旦を飾るに相応しい“和紙”SBGJ283。その温かみのある表情を和紙の歴史、雑学と共に再発見していきましょう!
世界が認める伝統工芸、日本の手漉和紙技術。2009年に島根県の「石州半紙(せきしゅうばんし)」、2014年に岐阜県の「本美濃紙(ほんみのし)」と埼玉県の「細川紙(ほそかわし)」がユネスコの無形文化遺産に登録されています。それだけでも凄いのですが、日本の和紙は海を飛び越え、バチカンの世界遺産システィーナ礼拝堂でも大活躍!ミケランジェロの作品『最後の審判』の絵の修復に和紙が活用されているそうです!
そんな日本の凄さと粋がギュッと詰まった“和紙”SBGJ283。漉いたような“白の美”を整理してみました。
≪SBGJ283のセールスポイント≫
白が美しいと、ワンポイントの赤もより輝いて見えます。6時位置「GMT」表記&針のみを赤色にしたことが功を奏し、凛とした品格が醸し出されています。模様がよく似ている“藤(Fuji)”SBGJ285は紫色のワントーンコーデでしたが、本作は紅白カラーというのも正月らしくておめでたいですね。
ちなみに、無形文化遺産に選ばれた3つの手漉和紙は、原料に楮のみを使用しているのも特徴です。和紙の原料は三椏(みつまた)や雁皮(がんぴ)なども有名ですが、楮はそれ等に比べ繊維が長く、光沢のある美しい和紙を漉くことができるそうです。
「グランドセイコースタジオ 雫石」のある岩手県は、今もなお「東山和紙(とうざんわし)」の製造が続けられ、伝統の手漉き和紙が800年受け継がれています。12月から2月の厳寒期にのみ漉く「寒紙」は、ネリの粘度が強い、薄くて高品質な光沢のある和紙として高い評価を獲得しています。
SBGJ283も楮和紙、東山和紙の長所である、“輝く白の美”をきっちりと継承。文字盤の色味を光沢のあるオフホワイトで表現し、コピー用紙の白さとは一線を画す、和紙独特の“温かみのある白”を再現しています。「白って200色あんねん」とはアンミカさんの名言でしたが、まさにひと言で「白」と表現しても、色々な白があるのを本作SBGJ283で痛感した次第です。本作は高級感、色味のまとまりがレベチです!!
「世界一長持ちする紙」と呼ばれる和紙、職人技でのみ作られる匠の凄さを見定めていきましょう!
本題のダイヤルについて触れる前に、少しだけ和紙の歴史をご説明します。
飛鳥時代(610年頃)に紙の作り方が伝わり、原料を麻から楮や雁皮に変えたのが、和紙の始まりだと考えられています。現存する日本最古の和紙は、奈良の正倉院に保管されている「美濃和紙」で、約1250~1300年前に製造された和紙が、当時とほぼ変わらない見た目(!)で残っており、その丈夫さが伺い知れます。洋紙の寿命は酸性紙が100年、中性紙が300~400年と言われているので、とてつもない保存性ですよね。
平安時代頃から貴族の間で和紙は重んじられるようになり、「枕草子」「源氏物語」なども和紙を使用。武家文化の発展と共に和紙の利用は隆盛を極め、室町時代には水墨画や掛け軸、屛風絵や仏教画に使われていきます。江戸時代には生産量も急増し、傘や瓦版、ちり紙など庶民の生活雑貨にも普及していったそうです。
それらの予備知識を踏まえ、本作SBGJ283のダイヤルに着目していきましょう。
色の見え方は個人差、モニター差があるとは思いますが、和紙特有の柔らかさ、少し黄色がかった色味が調和の取れた深みをもたらしていますね。
公式ページでは、『光沢のあるオフホワイト』という言い回しが用いられていますが、クリーム色、アイボリーホワイト、真珠色、くすみホワイトにも見える、只者ではない白色に仕上げています。
和紙職人の匠達は、代々受け継いできた独特の技法を忠実に守り、丹念な手作業で質の良い和紙を漉きます。古くから「紙は寒漉き」と言われており、気温が低いと、紙漉きに欠かせない「ねり」の粘性が長持ちし、きめ細かいよい紙ができるそうです。
約800年の伝統を誇る東山和紙は、粘剤であるトロロアオイのネリが良く、「寒紙」と呼ばれる紙質の良さで評判です。繊細優美な柔らかさ、素朴で丈夫な紙質は、室温1℃の作業場で多くの手間暇をかけて作られた末に、鎌倉時代の頃から現代に至るまで、その質の良さを保ち続けてきたのです。
このあたりの“面倒を惜しまず、手作業だから出来る伝統工芸”の良さは、美しくて頑丈、そして使いやすいグランドセイコーの腕時計にも通じるものがありますよね。2025年元旦にピッタリな日本文化を代表する正統派の「和」を“最高の普通”に昇華してきたな、という印象です。
日本のモノづくり、伝統的な美意識が凝縮された“和紙”SBGJ283。「色→模様」の順に、似て非なるグランドセイコーの白文字盤を見比べていきましょう。
「グランドセイコー 和紙」と言えば、時計通なら真っ先に思い浮かぶのは看板モデル“雪白”シリーズでしょう。海外ではスノーフレークのペットネームを持つ“雪白”は、80以上のプロセスを踏んだ末に、白塗りよりも白い「光沢の少ない銀メッキ」を完成させています。
理屈は何となく理解できますが、ミクロン単位の凹凸を加え銀メッキを施した方が、塗料を塗るよりも白く反射するのですから、科学って不思議ですよね……近しい手間暇がSBGJ283にも施されているのではないでしょうか。
定番の雪白ダイヤルに、レッドカラーを組み合わせ艶やかな顔立ちに仕立てたAJHH特別限定モデル“雪白”SBGA421。赤針とダイヤルリングの存在感は一瞥してわかる別格さです。他にも、裏ぶたのインパクトは絶大ですので、気になった方は実機レビュー記事も目を通しくださいませ。正直、ビックリしました!!
白×赤の雪白、で思い浮かぶのは、取り扱い店舗「西武池袋本店」「そごう千葉店」2店舗のみの限定73本、西武・そごう限定モデル“雪白”SBGA473も、実に良いバランスのカラーリングでした。
荘厳な「朝焼け」をテーマにしており、オレンジがかった朱色のジワジワ感が見事に雪白パターンとマッチしていました。ため息が出るほど美しかったですよ!
雪白ダイヤルの概念を覆す衝撃モデル「oomiya 和歌山本店オリジナルモデル」SBGA441。闇夜の雪景色に差し込む一筋の月光をイメージした墨色(ダークグレー)カラーが鮮烈でした。
第2弾の白文字盤SBGA483は、夜明けの雪原を照らす陽光をテーマにしており、oomiya流の光と影を具現化しています。SBGA483は玄人受けする良さがてんこ盛りでしたが、第1弾SBGA441はひと目見て分かる物珍しさに秀でていました。雪白パターンは黒光りしていてもカッコいいですね。ブラックカラーのパワーリザーブ表示も良い味付けです。
雪白シリーズから一旦離れ、本作SBGJ283に色味が似ているモデルもご紹介していきます。
和光限定モデル“あんずの花”SBGA485は、実機レビュー写真でお分かりの通り、薄ピンクのテイストがかなり白寄りで、赤の差し色含め“和紙”SBGJ283に近いものを感じました。少し凹凸のあるザラザラしたテクスチャー具合が、和紙っぽく見えました。
「不屈の精神」の花言葉もグランドセイコーのイメージにピッタリです。
文字盤のくすみ具合が本作SBGJ283に似ている「伊勢丹新宿店2024限定モデル」SBGY037。伊勢丹新宿店の外壁の色味やテクスチャーを、モダンにカッコ良く、モノトーンベースで仕立てています。SBGJ283は和紙っぽい黄色さがあるのに対し、SBGY037は暗いトーンのグレイッシュカラーが秀逸でした。色のベクトルは多少異なりますが、SBGJ283のゴワゴワした白み、に通ずるものがありますよね!?
2022年発売USA限定“松本城”SBGY023ぐらいまで行くと、白ではなくグレーになってしまうので、白色はさじ加減次第でガラッと印象が変わってしまいますよね……ある意味、白文字盤とは一番誤魔化しのきかないカラーリングなのかもしれません。
ピアゾスタッフが知る限り、初めて公式から「和紙」と公言された独特な風合いのテクスチャーを採用したSBGJ283。雪白よりも少し凸凹が目出つ、クシャクシャした風合いの「和紙パターン」に似たGSウォッチを、漉していくようにフィルタリングしてみました。
海外ではサクラを凌ぐ人気を誇る、藤の花を再現した2024年12月新作“藤(Fuji)”SBGJ285。本作の和紙パターンによく似た模様は、高貴な紫色にもよく似合います。藤の花の絶景は、紫色のシャワーと形容されますが、それに勝るとも劣らない妖艶な魅力に溢れていました。
“藤(Fuji)”SBGJ285よりも、紫色を濃く鮮やかにしたことで、 夜桜の美しさを再現した香港・マカオ限定モデルSBGJ287。昼間の薄ピンクとは雰囲気の違う、幻想的な輝きは濃いカラーリングで妖しい美しさを湛えています。模様で見ても、型番としても、発売エリア的にも、 SBGJ283、SBGJ285、SBGJ287は3兄弟といった感じですね。
前述の伊勢丹新宿店2024限定 SBGY037に似たテクスチャーの“晩冬”SBGW281と“季春”SBGW283。冬の終わりや春の訪れを知らせる、微妙なニュアンスの色使い、有機的な型打ち文字盤が醍醐味です。本作SBGJ283よりも凹凸が細かいように見え、繊細な印象を与えますね。どこか物寂しい雰囲気があり、そこが逆にチャームポイントです。
似ていると言えば似ている?“桜隠し”SBGH341&“桜若葉”SBGH343。淡いパステルカラーと和紙風テクスチャーは、文字盤をやふんわりとした風合いに仕上げていました。発売当時は、ありそうでなかったドンピシャのエリアを射抜いたな、という感想を抱いたのですが、今となるとよい意味で見慣れたテイストです。
この和紙っぽい模様には、白米と味噌汁のように、見ていて飽きない、それだけでよいような安心感がデザインにありますよね。
最後に、グランドセイコー以外のブランドから。
日本最大和紙の一つ「土佐和紙」を採用したシチズンの「和紙文字盤」限定モデル AQ4100-06W、AQ4100-14L、AQ4102-01X、AQ4100-22E。2種類の土佐和紙(「典具帖紙」と「雲龍紙」)とグラデーションカラーの上板を重ね合わせ、繊細な文様表現を編み出しています。
腕時計の文字盤=金属、という固定観念が浮かびますが、近くて遠い将来、和紙などの日本古来の伝統素材が大活躍するビジョンもあり得るのです。切り絵がそうですが、紙を光に当てると驚くほど美しい情景を描き出したりしますし、文字盤の模様への応用もいずれされていくかもしれませんね。
SBGJ283のサイズはケース径40.0mm×厚さ14.04mm、エバーブリリアントスチール製ケースにキャリバー9S86を搭載、スペック・素材・サイズが“藤(Fuji)”SBGJ285、“夜桜”SBGJ287と同じです。
値段に関しても、SBGJ285と同額の11,000シンガポールドル、12月末のレート(※1シンガポールドル=116.2円)で日本円に換算すると約1,278,200円でした。SBGJ285記事を書いた頃は、1シンガポールドル=114.9円、約1,263,900円でしたので、微増にとどまっていますね。
同記事「ケースデザイン&サイズ」項目でもお伝えした内容ですが、同スペック・同素材のレギュラーモデルSBGJ263、SBGJ265、SBGJ267は1,023,000円(税込)、約25万円前後の値段の差が生じています。為替レートの差については致し方無い状況が続きますが、2025年は一体どうなっていくのでしょうね。
⇒SBGJ283の値段へ。
SBGJ283に搭載されたキャリバー9S86の現行コレクション一覧です。本作を見た後のせいか、自然と白文字盤系を目で追ってしまいました。
本作SBGJ283のGMT針は赤色ですが、現行モデルはオレンジ、青針が多めですね。「白文字盤系に青、その他の色はオレンジ針」という組み合わせがレギュラーのセオリーとなっており、調べてハッとしました。こう見ると、僅かな差し色一つでかなり見た目の雰囲気を変えることができますよね。
海外公式ページのヘリテージコレクション&キャリバー9S86搭載モデルの価格は以下の通りです。
レギュラーSBGJ263、SBGJ265、SBGJ267が9,700シンガポールドル、日本円で約1,127,140円ですので、国内定価と比べると約10%程度、割高な状況が続いています。新年早々、お金で気が滅入るのも運気が逃げていきそうですし、リリース日が近い縁起の良いGS新作を一つご紹介します。
諏訪湖から見える初日の出を主題にしたタイ限定モデルSBGA513は229,000バーツで約1,007,600円、ほぼ同条件のレギュラーSBGA375は737,000円(税込)です。
逆転の発想でポジティブに考えると、国内市場向けGSウォッチは同時期発売の海外市場向けより安い、とも捉えられるので、新年を飾るに相応しいお値打ち品をアレコレ探すのも面白い考え方の一つとしてお勧めです。
他にも、姉妹サイト「クエリ」をタイミングよくご覧になれば、西武そごう限定モデル SBGA473が一本限りで入荷していたり、運次第で大変お買い得な特別価格にめぐり合えるときもございます。こまめなチェックをお忘れなく。
“和紙”SBGJ283とどのモデルを見比べるのが妥当なのか?本作がセオリー重視の白文字盤系ですし、シンプルに「似て非なるホワイトダイヤルの和紙テクスチャー」で見比べようという結論に至り、ド直球の看板モデル“雪白”SBGA211を比較対象に選別しました。
SBGJ283(右)SBGA211
≪SBGJ283とSBGA211のデザインの違い≫
同じ白でも、「和紙VS雪」とテーマが変わると風情がだいぶ異なりますね。本作SBGJ283は和紙らしい温かさがほのかに漂うのに対し、SBGA211はひんやりした冷たさが文字盤に表現されています。
SBGJ283は赤の差し色も効果的で、秒針やガラスリングなどを赤にせず、控えめな使い方に徹しているのも上品です。見慣れたはずの12時位置ピンクゴールド製「GS」ロゴも、いつもとちょっと違く見えますね。
白文字盤にまつわる感想も最後に一つだけ。
本作SBGJ283は定番中の定番であるホワイトダイヤルを選んでいますし、一見すると代り映えのしない限定モデルにも見えなくもありません。しかし完成度抜群の“雪白”SBGA211と見比べると、どちらも方向性の違う良さを感じさせ、「限定」の肩書きに相応しい、和紙の魅力が溢れるデザインをSBGJ283は創り出しているようにも見えます。
グランドセイコーというブランドは、色の使い方やまとまり、デザインのトータルコーディネート能力が卓越しているので、実機でもその違い、奥深さを堪能してみたいものです。
約1400年の歴史を誇り、宇宙服にも応用されつつある和紙。原料の楮や三椏は成長のスピードが早く、一般的な紙よりも製造時の化学薬品や水の量が少ない利点があります。
*注*パルプ材の元である木材は成長に何十年もかかるのに対し、楮は伸びた枝を刈り取っても翌年に同じ長さまで伸びる
数百年以上現存する保存性の良さ、地球に優しいサスティナブル性と良いこと尽くめな和紙。持続可能な社会(SDGs)の実現にも役立つ万能素材を2025年元旦のテーマに掲げたグランドセイコー。“和紙”SBGJ283の良さを隅々まで眺めると、日本とグランドセイコーの良さを再認識できますね!
モデル | ヘリテージコレクション メカニカルハイビート 36000 GMT 「和紙」
Heritage Collection Mechanial Hi-Beat 36000 GMT Asia Pacific-Exclusive Washi |
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型番(Ref.) | SBGJ283 |
ケースサイズ | 横 40.0mm 縦 46.2mm 厚さ 14.0mm |
ケース素材 | エバーブリリアントスチール 裏ぶた:エバーブリリアントスチールとサファイアガラス |
ムーブメント | メカニカル 自動巻(手巻つき) キャリバー9S86 |
精度 | 平均月差±10秒(日差±0.5秒相当) |
駆動期間 | 約72時間(約3日間) |
防水性 | 日常生活用強化防水(10気圧) |
耐磁性 | あり |
生産本数 | 150本限定 |
取扱店舗 | アジア太平洋地域全体のグランドセイコーブティックおよび正規販売店 |
発売日 | 2025年1月発売予定 |
価格 | 11,000シンガポールドル/285,000 タイバーツ |
※販売開始時期・価格は予告なく変更される場合があります。
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