更新日:2022年10月21日
在位70年で、世界史上2番目に長い在位期間を誇ったエリザベス女王が、今年96歳で亡くなりました。本記事では、在りし日のお姿を偲びつつ、エリザベス女王の愛用時計と英国王室御用達のブランド時計をご紹介します。
スコットランドの城、ロンドンの不動産、牧場、競馬場など莫大な資産を有し、紛れもない富豪としても有名だったエリザベス女王。2022年の英国長者番付「リッチ・リスト」によれば、エリザベス女王の純資産は約3億7千万ポンドと、個人資産の多くは非公開となっています。
また、自らの装いに強いこだわりを持っていたエリザベス女王でしたが、長い生涯の間一度も愛用時計のコレクションを公にすることはありませんでした。とはいえ、エリザベス女王の時計に関しては、初めてスイスを訪れた際にスイス政府よりジャガー・ルクルトの置時計「アトモス」を贈られた、高級腕時計を14本以上所有していたなどと噂されています。
専門家によると、エリザベス女王は、カルティエの一点物と見られるブラックストラップの時計のほか、パテックフィリップかオメガの1930年代のヴィンテージモデルの時計を長年に渡って愛用していたそうです。エリザベス女王の時計にまつわる公式記録は存在しませんが、在位の節目ごとに執り行われるジュビリーの際などにメディアの注目を集めていた女王ご愛用時計の数々をご紹介します。
1952年に父親であった国王ジョージ6世が崩御し、25歳の若さで即位したエリザベス女王。1953年6月2日にウェストミンスター寺院で行われた戴冠式では、ジャガー・ルクルトのキャリバー101がその手元を飾りました。史上初めてテレビ中継されることになったエリザベス女王の戴冠式ですが、その際に女王は、どうしても時計を身に着けたいと願ったのだとか。
そのため自らの戴冠式中に時間を確認していると悟られないよう、エリザベス女王は世界最小の機械式ムーブメントを搭載した、装飾性が高くダイヤルがあまり目立たない、イエローゴールドのブレスレットタイプのキャリバー101を選んだといわれています。
写真を見ると、確かに時計ではなくアクセサリーとしてブレスレットを着けているようにしか見えませんね。
1833年創業のジャガー・ルクルトが1929年に開発したキャリバー101は、98個の部品から構成されており、縦14mm、横4.8mm、厚さ3.4mm、重量1gのクォーツかと見紛うほどコンパクトなサイズです。キャリバー101は現在に至るまで世界でもっとも小さい機械式ムーブメントとして知られていますが、エリザベス女王はこの時計を元フランス大統領のジュール=ヴァンサン・オリオールからプレゼントされました。
1943年以降の公式ポートレートでは、ダイヤモンドをふんだんにあしらったジャガー・ルクルトのキャリバー101を着用したエリザベス女王の姿が見受けられます。その後、戴冠式を経て、ジュビリーや公の場でエリザベス女王がキャリバー101を着けている姿が度々認められたものの、いつしか行方不明になった模様です。そのような背景もあり、2012年のエリザベス女王即位60年を記念したダイヤモンド・ジュビリーの際には、ジャガー・ルクルトからホワイトゴールドの新しいキャリバー101が贈呈されました。
エリザベス女王が初めて将来の夫となるフィリップ殿下に出会ったのは、13歳のときのことでした。当時18歳だったフィリップ殿下は海軍士官候補生として若き王女の護衛に当たり、瞬く間に彼女の心を虜にしたといいます。
手紙のやり取りを交わし合い、確かな愛情を育んでいった2人は、第二次世界大戦後の1947年11月20日に結婚しました。ところが、戦争で疲弊しきったイギリス国民たちの目には、王女の結婚式は贅沢なものに映り、心から祝福する余裕のない人が多かったようです。
そんな2人の結婚式のギフトとしてスイス連邦参事会から贈られたのが、ヴァシュロン・コンスタンタン Ref.4481でした。輝くダイヤモンドがセットされたエレガントなカクテルウォッチは、世間の厳しい目にさらされて傷ついたプリンセスの心を癒したことでしょう。
後にエリザベス女王は、このヴァシュロン・コンスタンタン Ref.4481を1981年にチャールズ皇太子と結婚したダイアナ妃に譲りました。ちなみに、チャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式当日には、興奮のあまりエリザベス女王が礼拝後にジャンプする姿が目撃されたらしく、女王のお茶目な一面を窺い知ることができます。
1968年に発表されたパテック フィリップのゴールデン・エリプス。楕円という意味を持つ名前の通り、ゴールデン・エリプスのケースは縦に伸びた円の形をしています。エリザベス女王はパテック フィリップのゴールデン・エリプスがお気に入りだったようで、複数のモデルをさまざまな場面で着用している姿が記録されています。
パテック フィリップのゴールデン・エリプス Ref.3609/1は、ホワイトゴールドのケースとブルーのダイヤル、ダイヤモンドをあしらったベゼルが特徴です。1982年、ロンドンのメイフェア地区中心に位置する名門ホテル「クラリッジズ」で開催されたパーティーに出席した際や、公式ポートレート写真を撮影する際などにも、ゴールデン・エリプス Ref.3609/1がエリザベス女王の左手首を飾っています。
エリザベス女王のためだけに作られた、パテック フィリップ Ref.4975/1G。ホワイトのダイヤルにダイヤモンドがセッティングされたベゼル、5連になった真珠のブレスレットタイプのパテック フィリップ Ref.4975/1Gは、エリザベス女王にふさわしく、気品あふれるモデルです。 イギリス議会の新しい会期は、政治的権力は持たないものの、国の最高権力者である国王の演説から始まります。それゆえ、毎年エリザベス女王は議会の開会宣言を行いますが、2006年のイギリス議会開会式において、パテック フィリップ Ref.4975/1Gを着用している姿が認められます。
2011年、エリザベス女王が85歳のときに、孫のウィリアム王子がキャサリン妃と結婚しますが、その結婚式のときはもちろん、2010年に行われた彼らの婚約発表の際にもパテック フィリップ Ref.4975/1Gを着けていました。エリザベス女王とウィリアム王子の関係は良好だったようで、王子は陛下と呼ぶのではなく、「グラン(グランドマザーの略、おばあちゃんの意味)」と呼んでいたといいます。
2012年に、ドバイで初めて開かれた「パテックフィリップ ウォッチアート・グランド・エグジビション」ですが、3年後の2015年にはロンドンで開催されることに。その際に、エリザベス女王は自らのコレクションであるパテック フィリップ Ref.4975/1Gを貸与し、初めて女王所有の時計が一般に公開されました。
パテック フィリップ社を代表するモデルであるカラトラバ。12世紀のスペインで設立された戦闘騎士団「カラトラバ騎士団」に由来するコレクション名を持つカラトラバは、1932年に発表されて以来、フォーマルな場での着用に最適な品格を備えた時計として世界の王室やセレブを魅了してきました。
エリザベス女王が所有するパテック フィリップ Ref.4706/11は、レディース・カラトラバです。この時計はクォーツムーブメントを搭載したケース径20mmの小ぶりなモデルで、18金イエローゴールド製のビーズ・オブ・ライス・ブレスレットタイプとなっています。エリザベス女王は、1952年からこの珍しいモデルを愛用しているそうです。
さまざまな色のファッションを身にまとったエリザベス女王でしたが、近年の愛用時計はイエローゴールドのモデルでした。残念なことに、ダイヤルをしっかり確認できる写真がないためどこのブランドの時計なのかを特定するのは難しいですが、恐らくは世界三大時計ブランドのひとつであるオーデマ・ピゲのジュール・オーデマではないかと専門家たちは推測しているようです。
1992年に撮影された写真を見ると、アール・デコ調のオメガのデ・ヴィル レディマティックらしき時計がエリザベス女王の左手首に着けられていることがわかります。1992年は、66歳のエリザベス女王が即位40周年を迎えた年でした。
1955年に発表されたオメガのレディマティック。当時、女性用の時計といえば美しい見た目を重視したものがほとんどでしたが、オメガはそれらの美しさに機械的なアプローチを加えます。女性用の初の自動巻きモデルであるレディマティックは、車が大好きだった、意外にもメカ好きなエリザベス女王のお眼鏡にかなったのではないでしょうか。
時計と同じく、数々のジュエリーを所有していたエリザベス女王。代々受け継がれたものもあれば、個人的に贈られたジュエリーもありました。そんなエリザベス女王のジュエリーコレクションの中に、日本からの贈り物が含まれていることをご存じでしたか?
1975年5月7日、当時49歳だったエリザベス女王が初来日します。伊勢神宮を訪れた後、真珠が好きな女王は真珠島を見学。そして日本政府は、最高級の養殖真珠を女王に献上しました。その後、英国王室御用達の宝石商「ガラード」は、エリザベス女王のために日本の真珠でネックレス、イヤリング、ブレスレットを制作します。
日本の真珠で製作されたネックレスは「ジャパニーズ・パール・チョーカー」と呼ばれ、1983年11月16日にエリザべス女王が着用した姿が認められています。4連のパールにダイヤモンドの留め金が付いたネックレスはエリザベス女王のお気に召したようで、それ以降も度々ネックレスを着けた姿が見掛けられました。1995年に行われたサッチャー元首相の誕生日祝賀会に出席した際も、上品な輝きを放つ真珠のネックレスで首元を飾っていたといわれています。
また、エリザベス女王はジュエリーを貸与することも多く、ダイアナ妃やキャサリン皇太子妃もジャパニーズ・パール・チョーカーを着用。キャサリン妃に至っては、2022年9月19日に行われたエリザベス女王の国葬に、この日本製真珠のジュエリーを身に着けて参列したことで注目されました。
エリザベス女王や英国王室の歩みに興味がある方はもちろん、時計やジュエリーを含め、エリザベス女王やロイヤルファミリーのファッションに興味が湧いた方もいるのでは?そのような方には、ネットフリックスで配信中の「クラウン」や映画『エリザベス女王陛下の微笑み』、『プリンセス・ダイアナ』、『スペンサー ダイアナの決意』などの作品がおすすめです。
エリザベス女王の時計コレクションの一部を見ると、名だたる高級ブランドが揃っていることがわかります。しかし、腕時計にこだわっているのは、どうやらエリザベス女王だけではない模様。ここでは、英国ロイヤルファミリーの愛用時計をご紹介します。
なお、国王、皇太子、といった呼称が時代により混在していることをご了承くださいませ。
じつは結婚前から、チャールズ皇太子とカミラ夫人の関係に気づいていたダイアナ妃。結婚して2人の王子が誕生しますが、幸せな生活は長くは続かず1996年に離婚、さらには交通事故によりわずか36歳の若さでこの世を去りました。
婚約期間や結婚後、チャールズ皇太子からパテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンの「レディ・キャラ」をプレゼントされましたが、チャールズ皇太子との仲がすっかり冷め切った1990年代半ばになると、カルティエを好んで着用するようになります。
ダイアナ妃が愛用したのは、イエローゴールドのケースとブレスレットが華やかな 「タンク フランセーズ(Tank Francaise)」と、イエローゴールドのケースにブラックアリゲーターストラップの「タンク ルイ カルティエウォッチ( Cartier Tank Louis Cartier watch)」でした。
チャールズ国王の時計コレクションには、さまざまなブランドが名を連ねています。中でもパテック フィリップのカラトラバ・ディスコボランテは、若いときから愛用している時計のひとつです。1981年、当時まだ婚約中だったダイアナ妃は、チャールズ皇太子が出場したポロの試合を見に来ました。チャールズ皇太子の勝利を願い、彼女は王子からプレゼントされたゴールドのパテック フィリップと、王子から預かったこのカラトラバ・ディスコボランテの2つの時計を重ねて着けている姿が記録されています。
天才時計師ミシェル・パルミジャーニによって設立された、パルミジャーニ・フルリエ。1996年に創業した比較的新しいブランドですが、時計愛好家を魅了してやみません。チャールズ皇太子もパルミジャーニ・フルリエのトリック クロノグラフを所有しており、2018年5月19日にウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂で行われた、ヘンリー王子の結婚式の際に着用していました。
ジャガー・ルクルトのレベルソも、チャールズ皇太子愛用の時計です。シンプルな見た目でありながらも、ほかの時計とはひと味もふた味も違うレベルソ。ラテン語で回転させるという意味の名前を持つレベルソは、その名が示す通り、ダイヤルが180度回転します。
貴族のスポーツと呼ばれる“ポロ”のために誕生した時計ですから、ロイヤルファミリーにはまさにうってうけ、と言えるのかもしれません。
チャールズ国王はほかにも、カルティエのサントス、60歳の誕生日に贈られたブレゲのカスタムモデルなどを愛用しているといわれています。
ケンブリッジ公ウィリアム皇太子の愛用時計はオメガのシーマスター プロフェッショナル300Mです。2010年11月16日に行われた婚約発表の際に身に着けていたのが、このオメガの時計でした。じつはこの時計、母親であるダイアナ妃からの贈り物なのだとか。もっとラグジュアリーな時計を着用することも可能なはずですが、ウィリアム王子にとっては、思い出の品であるステンレススティール製ケースにブルーダイヤルのオメガが世界で1番の時計なのかもしれません。
2011年にウィリアム王子と結婚し、ロイヤルファミリーの一員となったキャサリン妃。彼女が愛用している時計は、結婚3周年記念のプレゼントとしてウィリアム王子から贈られた 、カルティエのバロン ブルー ドゥ カルティエです。ステンレススティール製ケースにホワイトのダイヤルのこのモデルは、鮮やかなブルーのインデックスとりゅうずが目を引きます。
王室を離脱したヘンリー王子の愛用時計は、GMT機能を搭載したロレックスのエクスプローラーⅡ Ref.216570です。こちらは、2011年から約10年間に渡って販売されたエクスプローラーⅡの4代目モデルで、ヘンリー王子がイギリス陸軍航空隊に所属していたときに着用している姿が写真に収められています。ヘンリー王子はほかにも、特別モデルであるブライトリングのエアロスペース・アドバンテージを愛用しているとのことです。
ここで2015~2016年頃にイギリス陸軍航空隊のために ロレックスが製作した「エクスプローラーⅡ ref. 216570 “Attack Helicopter”」という時計をご紹介しておきましょう。ヘンリー王子の除隊と前後しているので、ヘンリー王子の時計がこの限定モデルだったのかは定かではありませんが、世界に48本しかないこの限定モデルの裏蓋には“UK ATTACK HELICOPTER FORCE”の文字と時計が贈られた軍人の名前、そしてユニオンジャックの上を飛行するヘリコプターが刻まれています。
オークション等にもまだ数本しか登場しておらず、ロレックスコレクター垂涎の稀少モデルと言えるでしょう。
エリザベス女王とロイヤルファミリーの華麗なる時計コレクションを見ると、それぞれの人柄を反映したかのような時計ばかりで興味が尽きないのではないでしょうか。今回ご紹介したのはエリザベス女王が所有していたとされる時計のうちのほんの一部ですが、もしかすると今後、これまで謎に包まれたいた女王の時計コレクションの全貌が明らかになる日が来るかもしれませんね。