更新日:2025年11月04日
2021年、(Tiffany & Co.)とパテック・フィリップ(PATEK PHILIPPE)の170年にわたるコラボレーションを記念して発売された「ノーチラス 5711/1A-018 ティファニーブルー」は、時計界に大きな衝撃を与えました。ティファニーブルーのダイヤルにパテックフィリップとティファニーのダブルネームを刻んだこの限定モデルは、世界限定170本のみ。発売後すぐにオークションで高額落札され、コレクターと投資家の注目を集めました。
しかし今、その希少性と販売戦略を巡って、両社の関係性には大きな波紋が広がっています。
本記事では、ブルームバーグの報道をもとに、この伝説的なコラボモデルの舞台裏や、コレクター市場における現状、そして今後の高級時計業界への影響について解説していきます。
なぜノーチラスのティファニーブルーモデルが市場を沸かせ、ブランド間のパートナーシップを揺るがしているのか、その全貌に迫ります。
まずパテック・フィリップのノーチラスについてご紹介しましょう。1976年に誕生したノーチラスは、ラグジュアリースポーツウォッチの代表格として世界中で高い評価を受けています。独特でスタイリッシュなケース形状や、実用性と上品さを兼ね備えたデザイン、そしてパテック・フィリップならではの繊細な仕上げが、多くの時計ファンやコレクターを魅了し続けています。
特にステンレススチール製のモデルは希少性が高く、そのリセールバリューの高さも特徴です。
パテックフィリップ「ノーチラス」ファーストモデルREF.3700/1
そして、ティファニーが1851年に米国市場における初のパテック・フィリップ公認リテーラーとなり、実に170年以上にわたって両社は特別な関係を築いてきました。
2021年、この長いパートナーシップを祝って「ノーチラス 5711/1A-018」、通称”ティファニーブルー”がリリースされました。
ノーチラス ”ティファニーブルー” 5711/1A-018 ステンレススティール製。40mm。自動巻ムーブメント キャリバー 26-330 S C。170本限定。52,635 USドル(発売当時)
このモデルは世界でわずか170本しか製造されず、ダイヤルはティファニーを象徴する鮮やかなブルーで彩られ、6時位置には“Tiffany & Co.”のロゴが刻まれています。現在、パテック フィリップの文字盤に名前を並べているのは世界中を探してもティファニーだけであり、ティファニーWネームの時計はコレクターアイテムとして高い人気を誇っています。
発売当初の定価は5万2000ドル(約590万円、1ドル=113.4円、2021年12月時点)ほどでしたが、最初の1本がフィリップスのオークションで650万3500ドル(約7億3490万円)という記録的な値段で落札されるなど、発売直後から世界中の話題をさらいました。
誕生の背景やパテック・フィリップとティファニーの関係性、スペックや発売情報などをご紹介します
この時計が発売された2021年と言えば、パンデミック時代の高級品ブームの真っただ中。ティファニーにとっては、理想的なタイミングでした。同年にラグジュアリー業界史上最大規模となる160億ドルで買収されたLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンのもとで、売上が低迷していたブランドの再活性化を急いでいたのです。
パテックのティエリー・スターン社長はこの時計について、「ティファニーの買収を祝福する私からのささやかな贈り物でした」と語っています。しかしそれは”ささやか”とは程遠い、熱狂を生み出します。
「手に入らない」と言えば欲しがるのが億万長者たちの性。世界中の富裕層・有名人が争奪戦を繰り広げる事態となりました。
この希少な「ノーチラス ”ティファニーブルー”」を手に入れる資格があると信じていた富裕層の顧客たちをティファニーの販売員たちは“ウォッチ・モンスター”と呼んでいたとか。言い方は悪いですが、格好のカモだったのでしょうね。
この希少なノーチラスを購入するためには、200万~300万ドル相当のジュエリー購入を求められたケースがあったとされています。最近エルメスなどでも耳にする、いわゆる”抱き合わせ商法”です。
ティファニーにしてみれば、単純計算で170本の時計のうち、3分の2でもそれに付随してジュエリーの売上が200万~300万ドルずつになれば、3億ドル近い利益を得ることができるわけです。
しかし情報筋によると、スタッフはいかなる”非公式の見返り”も書面にしないよう幹部から指示されていたとのこと。割り当てはティファニー幹部の裁量に任されており、その手法は至る所で横行していたそうです。
結局ティファニーのジュエリーに大金を費やしても、手ぶらで帰ってきた顧客も多く、それまで長年ティファニーやパテックを愛用してきた顧客も、長年にわたって購入したものが何の価値もないように思われる、と憤慨していたといいます。また、どうにか購入できても、その時計が転売市場に出回り、どんどん価格が下落していくことに憤る人もいたそうです。
2022年初め頃から、ジェイ・Z、レブロン・ジェームズ、レオナルド・ディカプリオといったセレブリティがこの時計を着用した写真が公開されると、何百万ドルも費やしたにもかかわらず、まだ何の成果も得られない一般顧客の不満に拍車がかかりました。
公式なウェイトリストも存在せず、ごく限られた上顧客にだけ購入権が与えられるなど、透明性に疑問を持つ声も噴出しました。「どれだけ高額な買い物をすれば時計が買えるのか?」といったコレクターたちの不満もSNSなどで拡散され、パテック・フィリップの哲学である“慎重な顧客選定”とは対照的なイメージが付きまといはじめたのです。
パテック・フィリップの時計を身に着けている有名人と、その着用モデルを紹介します。
この一連の騒動は、170年以上続いたパテック・フィリップとティファニーの関係にも「ひび」をもたらすことになりました。ブルームバーグの記事によれば、ティファニーブルー ノーチラスの極端なプロモーションや一部の顧客の不満が、パテック・フィリップ側の信頼を損ねるきっかけになったとされています。
特に問題視されたのは、LVMH傘下になったティファニーが、自社のブランド強化のためにこのノーチラスを利用したと見られる点です。パテックは、控えめなブランド運営と長年の顧客との信頼を重視する姿勢をとっており、その方針とのギャップが明らかになってしまいました。パテック関係者の証言によれば、この一件以降、両社のパートナーシップは「冷却期間」に入ったとされています。
「ノーチラス”ティファニーブルー”」発売以降、パテック・フィリップはティファニー内にあった4つのブティックのうち3つを閉店しています。パテック・フィリップは「グローバルな統合の一環」であり、商品を販売する拠点の数を減らすためである、と説明していますが、ティファニーの元マネージャーは、ノーチラス販売におけるティファニーの対応に対するパテックの不満が引き金になったのではないかと話しています。
いくら大金を費やしても報われなかった顧客の一部は、カルティエのようなライバルブランドにシフトしているようです。データ分析会社のユーロモニター・インターナショナルによると、スイスのジュエラーが高級宝飾品の売上高で世界的にシェアを伸ばしているのに対し、ティファニーは2022年以降、1ポイント下落して11%、LVMHの宝飾・時計部門も2024年末までの2年間の売上高は横ばいでした。一方、カルティエ、ヴァン クリーフ&アーペルなどのブランドを擁するリシュモングループの宝飾部門の売上高は、3月までの2年間で14%増加と好調に 推移しています。
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パテック・フィリップとティファニー、両者のブランド名が並ぶ「ダブルネームモデル」は、時計史においても非常に希少です。歴代のカラトラバやワールドタイムなど、限定モデルとして登場したことはありましたが、ノーチラスのティファニーブルーモデルほど注目を集めたものは他にありません。そのため、この時計を所有することは単なる資産的価値以上に、歴史や伝統、その誕生にまつわるストーリーを受け継ぐことに他なりません。このような背景から、「ノーチラス 5711/1A-018 ”ティファニーブルー”」はコレクター市場での価格も大きく高騰しました。
ただ、今回の一連の騒動の影響かは分かりませんが、「ノーチラス 5711/1A-018 ”ティファニーブルー”」のオークション価格や中古流通価格は、当初に比べ大幅に下落しています。
海外での主なオークション落札価格の推移をまとめてみます。
| 開催時期 | 落札価格 | オークションハウス |
|---|---|---|
| 2021年12月 | $6,503,500 (約7億3490万円) | PHILLIPS |
| 2022年11月 | CHF 3,174,000(約4億5,705万円) | CHRISTIE'S |
| 2023年4月 | 20,415,000 HKD(約3億4,705万円) | Sotheby's |
| 2023年5月 | CHF 2,223,000(約3億3,345万円) | CHRISTIE'S |
| 2024年5月 | 1,213,301USD(約1億6,986万円) | Loupe This |
※日本円の表示金額は当時の平均為替レートで換算した概算価格です。
2021年12月の650万ドルという驚異的な高額落札を記録して世間を驚かせた「ノーチラス 5711/1A-018 ”ティファニーブルー”」ですが、2024年には約120万ドルと、4分の1程度にまで下落していることが分かります。
この事実は転売目的のバイヤーにとっては残念な事実でしょうが、それでも2025年現在、中古市場ではティファニーブルー ノーチラスが2億円から3億円を超える価格で取引されることも珍しくなく、その希少性ゆえに、「聖杯モデル」として一部の愛好家の間では伝説的な存在であることは疑いようもありません。
2025年7月調査時点で、海外の高級腕時計オンライン取引サイト「Chrono24」への5711/1A-018の出品数は14本で、販売価格は2億2400万円~2億8000万円台前後、ただし半数以上が「応相談」と設定されています。
国内の高級時計専門店やオークションでも入手困難な状況は変わりませんので、今後も一定のプレミアムは維持していくことと予想されます。
2021年のインタビューで、パテックのティエリー・スターン社長は既にトラブルの可能性を示唆し、「ティファニーの幹部は、顧客を選ぶのがどれほど難しいか理解していないかもしれません。」と語ったと伝えられています。スターン氏の失望が窺い知れますね。
今回の件は、高級時計ブランド間の微妙なバランスと、ラグジュアリービジネスにおける「価値のコントロール」がいかに難しいかを浮き彫りにしています。
LVMHグループ入りしたティファニーの方向性の変化や、パテック・フィリップ側のブランド哲学との兼ね合いで、今後、両社による新たなコラボモデルや限定コレクションの発表については不透明な状況です。
もしこれが「パテック・フィリップとティファニーの”最後の”コラボモデル」などという冠を得ることになれば、逆に将来的には価値が上昇する可能性すら秘めています。現在はティファニーの販売戦略による醜聞でやや評判を落としているとしても、人の噂も七十五日、と言いますから・・・。
「ノーチラス 5711/1A-018 ”ティファニーブルー”」は、美しさと希少性を兼ね備え、パテック・フィリップとティファニーという二大ブランドの170年に及ぶ信頼と友情の結晶です。その舞台裏では、希少性ゆえの顧客心理や複雑な販売戦略、そして時代を超えたブランド哲学が交錯していました。
今後、どのような限定モデルや意外なサプライズが生まれるのか、あるいは生まれないのか、期待しつつ、時計愛好家としては「名作には必ずストーリーがあり、その物語こそが最大の魅力」であることを忘れずに、自分なりの楽しみ方を見つけていきましょう。
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